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終末の探偵のnetfilmsのレビュー・感想・評価

終末の探偵(2022年製作の映画)
3.6
 とある街の喫茶店を事務所代わりにして、しがない探偵業を営む連城新次郎(北村有起哉)がいる。博打に目がなく闇の賭場に入り浸り、MAKER'S MARK片手にしたいつも酒癖の悪い中年男である。今は喫茶店「KENT」の一角を間借りしながら、約束の家賃は滞っている。ある日、闇の賭博場でトラブルを起こした新次郎は、顔なじみのヤクザである笠原組幹部の恭一(松角洋平)から面倒な仕事を押しつけられる。笠原組が敵対する中国系マフィア、バレットの関与が疑われる放火事件の調査を依頼されるのだ。時を同じくして新次郎は、フィリピン人の両親を強制送還させられた過去を持つガルシア・ミチコ(武イリヤ)から、謎の失踪を遂げた親友のクルド人女性の捜索を依頼される。やがて恭一や新次郎が何者かによってボウガンで撃たれる事件が発生し、笠原組とバレットの対立が激化していく。いかにも昭和の時代のNテレ系の『傷だらけの天使』や『探偵物語』の一篇のような物語だ。曲がったことが大嫌いで、困っている人を見たら放っておけない。だけどギャンブルと酒が好きで、依頼者から預かったお金は数日で使い果たしてしまう。今作も新次郎は2つの異なる依頼から、東京のとある町(おそらく町田辺りだと予想)の事件の深淵へと知らず知らずに足を踏み入れて行く。

 まるで20世紀にタイムスリップしたような味わいを醸す物語だ。セブンスターの煙草を吸いながら、レイバンのサングラスを付けて街を闊歩する主人公を最近すっかり渋みを増した北村有起哉がまるでショーケン(萩原健一)や松田優作のように演じる。明らかに住むべき場所と時を間違えた昭和の残党は、愛すべきアウトローにも見えて来る。近年でも『まほろ駅前多田便利軒』や『探偵はBARにいる』など所謂ハードボイルドな探偵モノは数あれど、大人の渋みでは今作が一番出色の出来だ。そしてこの連城新次郎という人物には色々と謎が多い。探偵とヤクザの間に横槍を入れるはずの刑事が存在しない物語は、巻き込まれ型の主人公が正面突破で物事を解決するしかないのだが、見えない泥濘に足を取られて行く。古典的なハードボイルドものでありながら、舞台や設定は極めて現代的なのが今作のミソで、昔気質のヤクザは暴対法の影響でどんどん弱体化し、中国系移民の組織が幅を利かせている。ヘイトクライムまで渦巻く有り様だ。地元の小さな商店街は閑散とし、この町に根を下ろし平和に暮らすはずだった安井のおっちゃん(麿赤兒)は皮肉にも、街の残酷な変化をただ黙って見守る他ない。武イリヤもヒロインと呼ぶには北村有起哉とあまりにも年が離れすぎていて、大人のロマンスにはなりようがない。クルド人難民のくだりは『マイスモールランド』と地続きの世界だ。ミチコもチェン・ショウコウ(古山憲太郎)も恭一も、もっと言えば主人公の連城新次郎もまた、この街のアンダーグラウンドに身を潜め生きている。

 この予算規模の映画であれば映画ではなく、深夜ドラマの方がフォーマット的には相応しいようにも見える。名バイ・プレイヤーとして数々の映画内で異彩を放つ北村有起哉も、主人公として相応しいか否かは再考の余地もあろう。然しながらこの連城新次郎という男をもう少し深堀してみたいと思う。続編を強く希望する。
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