しの

ちひろさんのしののレビュー・感想・評価

ちひろさん(2023年製作の映画)
2.9
孤独で欠けている人同士の群像劇として設定や会話が露骨で、今泉作品のナチュラルな良さがあまり出ていない気がした。特に主人公のちひろさんがずっと作り物めいていてあまり面白くない。有村架純がどうにも役から浮いている気がする。

兎にも角にも主人公であるちひろさんが中途半端にフィクショナルなのが問題に思う。やたら独り言が多いし、芝居も全体から浮いている。ただ、かといってそういう素を見せない浮世離れしたキャラクターとして造形されているかというとそうでもなく、むしろ湿っぽい内面を匂わせる台詞がわりと具体的に出てきたりする。寅さんにしたいのか何なのか掴めず。

これをアイコニックで品の良い有村架純が演じているのもノれなくて、要は「こういう人いるかも」とならないのだ。この手のキャラクターは、居そうで居ない、でも居てほしいという絶妙なラインを突いてほしい(そうでないならもっとリアルな人物造形にしてほしい)のだが……。そういう意味では、申し訳ないが自分は先代ちひろさんを主人公にしてくれと思ってしまった。

脇を固めるキャラクターに関していえば、(これは原作由来なのだろうが)問題を抱えている人物ばかり登場して、しかもそのバックグラウンドが安易な点にあざとさを感じてしまった。今泉作品はむしろ「こういう家庭環境で……」みたいな分かりやすい背景設定がない、“普通の人”を面白く映す点が個人的には好きなのだが、本作においては今泉作品らしいチャーミングな部分が入る余地がなくなっているのが窮屈だった。そういった要素を感じられるのは、例えば宿題を教えて喧嘩するシーンとか、餃子の大きさを尋ねる会話とかであって、ああいう自然なやりとりのなかのユーモアや愛しさこそこの監督の真骨頂ではないか。その意味では題材と作家性がマッチしていない気がする。

こういう窮屈さに加え、卑近さのない主人公の配役も相まって、彼女の我が道を征く感じがむしろ規範的であざとく見えてしまった。面接のときに弁当を美味い美味いと食べるあの感じすらあざとい。自分は、カッコ悪い所がカッコいいからこそ寅さんが好きなのだと再確認した。そして今泉監督はぜひオリジナルで撮って欲しい。
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