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しのび泣きのrsのレビュー・感想・評価

しのび泣き(1945年製作の映画)
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「お前が3人の男たちに恋したら、この3つの指輪をそれぞれ渡しなさい。」
父親から指輪をもらい受けた女には、恋に落ちた男がいた。彼は作曲の天才だが、娘を破滅へ道連れにするだろう。そう予知した父親に引き離され、彼らは別々の道を歩み、数年の時が流れる。やがて、それぞれ伴侶をえた彼らの道は2度交わることになる。

たとえ幾とせ、ふたりの愛が変わらずとも、離れていた歳月はあまりに長く、人生をやり直すにはあまりに不甲斐ない。

女は器が大きく忍耐強かったが、芸術家肌で女好きのする男には意気地がなかった。音楽家としての成功や女と結ばれる機会を、土壇場で逃げ出してふいにする。だというのに、傍でずっと想いを寄せてくれる人がいながら、女は男しか見えていない。
彼女が愛したのはたった彼一人。男も彼女を心から愛していた。今までもこれからも、まるで呪縛のように。確かに男は女を破滅へと道連れに……。

編集で魔法のように暖炉に火がついたり、テーブルの上の食事があっというまに消えたりする。喜びで心が温まったり、安堵で食欲旺盛になったりする心理を表す技巧的な演出。
また実家の鏡で、父親には恋する娘一人の姿を、数年後の男女には抱き合う彼らの姿を映してみせる。
とある人物が飛び降り自殺する際、カメラが窓に突進していくような画には鳥肌が立った。

カカオ99%の苦みが舌を刺す作品だった。愛とは甘い悦びだけではないのだと。
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