とらキチ

熊は、いない/ノー・ベアーズのとらキチのレビュー・感想・評価

4.6
イランの隣国トルコで、偽造パスポートを使い国外逃亡しようとしている若い男女を主人公にしたドキュメンタリードラマ映画を撮影するため、イラン側の国境近くの小さな村に滞在するパナヒ監督。彼はそこからリモートで助監督レザに指示を出していた。そんな中、滞在先の村では古い掟のせいで愛し合うことが許されない恋人たちをめぐるトラブルが大事件へと発展し、パナヒ監督自身も巻き込まれていく。
「人生タクシー」はかなりノンフィクション寄りのモキュメンタリーだったけど、今作は相当にドラマ寄り。パナヒ監督の佇まいがとても自然でメチャクチャお芝居上手いじゃん!って思いながら鑑賞していた。また、パナヒ監督が乗っていた劇用車が“パジェロ”だったり、真夜中のイラン=トルコの国境の荒野の感じ等々、つい先日鑑賞したパナヒ監督の息子さんパナー・パナヒの監督作である「君は行く先を知らない」を思い起こさせるものがあった。
「人生タクシー」でも語られていた“俗悪なリアリズム”と常に戦うパナヒ監督。今作でも“ヨーロッパへ亡命しようと企てるカップル”“古いしきたりが残る村で駆け落ちを図るカップル”“監督の滞在する国境の村”コレら3つのストーリーラインの軸を巧みに絡み合わせ、現在のイランという国の状況を暗喩していく。でも今作に関してはその訴えたいメッセージは、決してイランだけに限った事柄だとは言えないのではないか。
とても苦渋に満ちた結末が待っているのだけど、ラスト、車のサイドブレーキをグッと引くパナヒ監督の姿に、何か決意というか覚悟みたいなモノを感じた。
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