ピロシキ

ぬいぐるみとしゃべる人はやさしいのピロシキのレビュー・感想・評価

3.9
京都が舞台なのに誰一人関西弁を話さないし、大学はどうやら不特定なのにキャンパス内にガッツリ立命館大学と書いてあったりして、冒頭から細かいところがいちいち気になってしまって困った。しかしながら物語が進むにつれて、徐々に共感ポイントが増えてきてしまってさらに困った。これは、「男なんだから」「女なんだから」といった外部からの押し付けが年を追うごとにナンセンスになっていくような今の社会を象徴する作品である。たしかに、昔ながらのオジサンに「今の若い子って皆んなこんな感じなの?ついていけませんわ〜w」とか言わせちゃうだけの威力はある。

柔らかくゆったり時間が流れていく「やさしい」雰囲気によって、かえって際立つのはあまりにも「やさしくない」現実。やさしさで立ち向かうだけではペシャッと潰されてしまうような、現実の残酷さ。この物語は、そこから目を逸らさなかった。だからこそ最後のあのたった30秒である人物から語られる言葉に、僕は鳥肌が立ってしまった。自分でも少しびっくりするぐらい。寄り添うのもやさしさ、突き放すのもやさしさ。人と関わることは痛みを伴うものだけど、それでも人は、人と関わることでしか生きていけない。
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