NAO141

SHE SAID/シー・セッド その名を暴けのNAO141のレビュー・感想・評価

4.5
まさに今だからこそ観るべき作品。

〈#MeToo〉
2017年に急速に拡大したこの運動、そしてその契機となった告発事件を覚えている方も多いかと思う。〈#MeToo〉運動は性暴力とハラスメントの被害経験をハッシュタグ〈#MeToo〉を付けてオンライン上に投稿する運動であり、これまで被害に遭っても沈黙せざるを得なかった人々の間に連帯を生み出した他、性暴力に対する社会全体の認識の甘さと加害者が簡単に罪から逃れる実態を明らかにした。最初こそ女性を中心にした運動ではあったが、今では性差を超えて多くの人々が沈黙を破ることに繋がっている。そういった意味では非常に意味のある運動であるが、その契機となったのはハーヴェイ・ワインスタインというハリウッド映画界では超有名な大物プロデューサーが犯した数々の性暴力事件が明るみになった事による(このプロデューサーで有名な作品は『シカゴ』や『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ、映画好きなら誰もが知っている作品である)。

そして、この大物プロデューサーの犯罪を報道して、世に明るみにしたのが、ニューヨーク・タイムズの2人の女性記者ミーガン・トゥーイーとジョディ・カンターである。本作は彼女達が当時の状況を克明に執筆した〈その名を暴け ―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―〉という本を映画化したも
ので、完全な実話である。作品としては〈#MeToo〉運動を生む原動力となった画期的な出来事として華々しく描き上げる事はなく、一つの記事を書いて発表するまでの辛抱強く忍耐強い過程を丁寧に描いている。作品としては地味ではあるものの、非常に心にズシリと来る良作。映画界の大物プロデューサーの犯罪を映画界が製作するという事にも大きな意義があるように感じる。

ただ、本作ではニューヨーク・タイムズが大きな事件を暴いた理想的なジャーナリズムの象徴のように描かれるが、ここには少し注意というか、冷静な視点も必要。何故ならニューヨーク・タイムズも他のメディアも、過去にはこのワインスタインの犯罪を言論封殺していた過去はあるのだ。犯罪は暴かれたが過去には被害者を黙らせてきた(黙らざるを得ない環境に置いてしまった)メディアの罪という部分も忘れてはならないように思う。また〈#MeToo〉運動の中心であった女優兼映画監督のアーシア・アルジェントも告発した側であったかと思えば、ジミー・ベネットから告発される側になる等、単純に〈メディアが悪事を暴いた!〉とか〈女性が巨悪に立ち向かった!〉という側面だけを信じるのではなく、別の側面ではどういった事が起こっていたのかを理解して、その上で自分はどう考えるかという視点も忘れないようにはしたい。

作中に印象的な台詞がある。
「問題は(被害者ではなく)加害者の側を守る法のシステムにある」
「あなたに起きたことは変えられない。でも事態が繰り返されることを止め、未来を変えることは出来る」

性被害に遭いながらも声を挙げられない人は社会にまだ多いかもしれない。けれども勇気を振り絞って声を挙げる事で社会が大きく変わる事もある。その勇気には敬意を払いたい。その勇気が人々の意識を変え、行動を変え、社会を変えていく。本作は自分の身に置き換えて受け止めやすいテーマ性もあり、勇気をもらえる作品にもなっている。

一方で〈何故このような犯罪が数十年間も繰り返し行われたのか〉さらには〈何故その犯罪が数十年間も隠蔽され続けていたのか、何故そんな事が出来たのか〉という点はメディアを含め、見て見ぬふりをしてきた人々にも責任があることは言うまでもない。まさに今大きな問題になってしまっている〈ジャニーズ事務所〉の件ですら、昔から噂されていた事なのに(あるいは知っていた人も多かった事なのに)、この大き過ぎる最悪な犯罪が明るみになるまでにはあまりにも時間がかかり過ぎた。この点は当事者達だけの問題ではなく、利害関係者含め見て見ぬふりをしてきた社会全体の問題としてこれからも考えねばならないと思う。この問題はあまりにも大きくて闇が深い。けれども真実が明るみになり始めた今から社会がより良い方向(形)になることを願いたい。本当にそう思う。大きな事が動き出す時にはいつも誰かの小さな一歩がある!
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