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ロストクライム -閃光-のodyssのレビュー・感想・評価

ロストクライム -閃光-(2010年製作の映画)
3.0
【作品の芯が見当たらない】

以前なら宮崎あおい主演の『初恋』が三億円事件を扱っていましたが、この『ロストクライム』が同じ事件をどう扱っているのかという興味から見てみました。

三億円事件がお蔵入りしたのは周知の通りですが、それには実は裏があったというお話です。その裏のいきさつ自体は大したことはありませんが、そこから惹起された人間関係が後半の見どころです。

いろんな人物が出てきてそれなりに多様な関係を見せてくれるので退屈せずに鑑賞することはできました。ただ、見終えてみて、何かもう一つ充実感に乏しく、散漫な後味が残ったことはたしかです。この作品の中心がどこにあるのかがちょっと見えにくいのです。

まず、三億円事件の謎解きとして見ると、からくりはわりに単純で、さほど観客を驚かせるところまではいきません。退職間近のヴェテラン刑事(奥田瑛二)と若い刑事(渡辺大)のコンビの面白さが核心なのかと思いましたが、これも大したことはない。思うに、安月給の刑事が一軒家に住んでいるという設定自体が甘いのではないでしょうか。また、出世志向を濃厚に持っている若い刑事がああいう女の子と同棲しているという設定も、無理目な気がします。

他方、犯人側の姿は切れ切れにしか出てこないので、彼らが犯罪に手を染めた情念やその後の年月も十分には伝わってきません。『初恋』だと、犯人側の情念や思考形態が時代性とともに描かれて、そこが映画の芯を形成していたのですが、そういう部分がないのです。いささかムード的な描写に留まっているという印象です。

また、主演の刑事二人と、それ以外の警察官があまりに対照的に設定されており、ここもかなり映画の底を浅くしているように思えました。

全体としてみるとキャスティングも悪くないし、各俳優の持ち味がそれなりに活かされていて、その辺がこの映画を見る楽しみになっていますが(私的には、熊谷真美がよかった)、惜しくも傑作にはなり損ねたと言わざるを得ないでしょう。
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