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エゴイストの豚のレビュー・感想・評価

エゴイスト(2023年製作の映画)
3.8
「誰かのため」の裏返し

ファッション誌の編集者として働くゲイの主人公が、とあるきっかけから出会った存在と織り成すラブストーリー。
時代ゆえかLGBT先行型な評価が気になったけど、蓋を開けると意外とそこまで濃度の高いものではなく、普遍的な「人間」に重きを置いた構成。

原作が自伝小説ゆえに主人公の浩輔に感情移入せざるを得ないのだけれど、どこか視聴者を突き放した作りが面白いなと思った。
なんというか、悲劇とか喜劇とかじゃなくて、まさにひとりの人生を俯瞰して見させられている感じ。
そのうえで「エゴイスト」という表題の意味がイマイチピンと来なかったんだけれど…ここは改めて原作を読むととても腑に落ちた。

圧巻は主演の鈴木亮平、所作がすごい。
「オン(対社会)」のときですら、微妙に隠しきれないオネエ感。
に対して「オフ(対属人)」はオフで、若干無理してそうな、居心地の悪さ。
龍太といるときが本当の自分なんだ、という独りよがりな感情がとても好き。
龍太役の宮沢氷魚ももちろん素晴らしい演技なんだけれど、お母さんの阿川佐知子の空気感が絶妙。

淡々と進んでいく物語なので、うっかりすると「なんだっけ?」となるシーンもあるかもしれません。
重そうなテーマ…に見せかけて、コメディチックな場面もあって笑える場面も少なくないです。
がっつり「観るぞ!」というより、体温低めに感情移入しつつ観るのが良いのかなぁと思いました。

人は人と繋がることでしか、何かの証明を立てられない。
それを体現してくれた人たちに対しての思いは、どれだけ綺麗事を並べても、利己主義な側面があることは否めない。
「誰か」を言い訳に自分のエゴイズムを押し付ける主人公たち。
その果てに掴んだ景色に、表題とは真逆のテーマが横たわっているのがとても印象的。
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