YAJ

ウクライナから平和を叫ぶ Peace to You AllのYAJのネタバレレビュー・内容・結末

3.0

このレビューはネタバレを含みます

【イメージ合戦】

 短い作品なので(67分)台風の雨の合間を縫ってサクっと鑑賞。
 もとより小さいスクリーンでしか掛かっておらず、お昼にさしかかる時間帯もあってか、わずか6人で鑑賞。
 戦端が開かれてから早半年以上が経過。遥か西方の戦争への関心は、もはやこんなものか?

 そもそも本作品は現状のお話ではない。スロバキアのカメラマン、ユライ・ムラベツ・Jr(監督兼任)が、マイダン革命後のウクライナ紛争地域に潜入し、現地に暮らす人々に直接取材したもので、2014-2016年ごろのウクライナ東部の様子が生々しく写し取られている。

 逆に言うと、この戦争は2022/2/24にはじまったのではなく、現地では既に8年以上もの年月が経っているということだ。その当時ですら、小さな集落、町のあちこちは、既に廃墟といわんばかりに砲撃、銃弾戦で破壊、崩壊が進んでいた。

 2014年のクリミア併合以降続く紛争と捉えるか、歴史を繙いて、更に巨視的なものとして捉えるか。

 監督がインタビューした中にウクライナ軍大佐がいた。彼曰く「誰も過去の歴史を学ばなかったから戦争が起きた」と。歴史を学べば学ぶほど、因の根は深いのではないかと思い知らされる気がする。



(ネタバレ特になし)



 メディアが現地に赴けば、一次情報としてはより真実に近いものを手にするだろう。その後は、それをどう伝えるか、どこを通じて発表するか。二次加工品となったときに真実がどのように変化するかをよくよく考えないといけない。

 スターリン時代、英国人記者Gareth Jonesも本作監督と同じくウクライナの地へ足を踏み入れ、その眼で真実に触れる。が、そこから外へ情報を送ろうとしたときに、大きく立ちはだかる障害があることを描いたのが映画『赤い闇』(2019)だった。
 真実にのしかかるバイアス、隠蔽、あるいはフェイクの罠。そうしたものに阻まれないよう、本作監督も気を使ったのだろう。
 ウクライナ側、親ロシア側をバランスよく取り上げるよう心掛けたと言っている。

 それでも前半は、蹂躙され親露地区に取り残された住民の「キーウはネオナチだらけ」「早くプーチンに助けて欲しい」といった証言など、ウクライナ側への恨みつらみが目立つ。
 これらをロシアによる思想の統制によるものと片づけてしまうのは簡単。国是や基本理念、プロパガンダの浸透と、思想統制、洗脳は紙一重だ。

 ただただ、この作品からは戦場の悲惨さと、戦禍に苛まれる人々の悲哀、戦争は何も生まないということを感じ取ればよい。

 一方、パンフや公式サイトにチャリティキャンペーンの案内が。「売り上げの一部をウクライナ大使館に寄付致します」と。
 あらら、ロシアもウクライナもなく、「平等に話を聞くことで見えてくる、「繰り返される戦争の理由」とは?」を問うことが、本作監督ユライ・ムラベツ・Jrの製作意図だというのに、興行側は偏っているのだった。

 何をどう見せるか。これも意識や印象の刷り込みの手段のひとつではある。どちらの側もやる所業だ。
 と、分かった上で、モノゴトには触れて行こう。
YAJ

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