がんがん

ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界のがんがんのレビュー・感想・評価

4.0
速攻でディズニープラスにて配信してくれたので有り難く鑑賞させていただきました。夢に満ち溢れた作品でとても良かったです。

ネットで感想を読んでるとどうしようもなく悲しくなってきまして…以下、とてもめんどくさいことを言っているのでスルー推奨です。







本作、何もかもが普通に描かれている世界。ゲイの息子、前足のない犬、ファイター型女性大統領、車椅子の人、それぞれが設定やストーリー上で意味あるものではなくて、特に意味なく描かれているのがとても良かったです。

タイトルの「ストレンジ・ワールド」これは直訳すると変な世界、奇妙な世界になるわけですが、この作中で描かれた世界には偏見も差別もありません。当たり前にそれぞれがありのままに存在しています。

人はどうあるべきか?ではなくて、自分は何がしたいか?を主題として心の在り方、人生の生き方、生きてく上で何を選択したいのか?が丁寧に描かれていました。生まれ持ったそのことをありのままに、そこから何を選択して進むのか?というテーマが良かったです。


しかし悲しいかな…感想を漁っていると、「ゲイの設定に必要性を感じず違和感だった」「お爺ちゃんが孫のセクシャリティを認めているのはおかしい」「ポリコレ配慮に辟易する」「説教臭い」などなど…

つまりメタ的にこの作中の偏見も差別もない世界観こそが変である、奇妙であると現実世界で生きている人々が言ってしまっているわけで。こんな皮肉で悲しいことが起きてしまっている…

作中の世界は決して変でも奇妙なわけでもなく、至って普通に普通で普通なことなのに。もしかして現実世界でそんな人々は存在していない、生きていないとでも思っているのかな?たまたまあなたには見えていないだけ、もしくは我慢して傷つき隠していてあなたには見えていないように見えているだけ、いうことかもしれないのに。

例えば髪の毛が癖っ毛の人が作中に登場するとその癖っ毛に何かストーリー上の意味を持たせないといけないのだろうか?背が低い人は?身体がふくよかな人は?メガネの人は?杖をついている人は?一重の人は?無意識の優生思想ほど怖いものはない。「自分には偏見はないのだけれど…」その後に続く言葉の無自覚の残酷さよ。


そもそもディズニー=LGBTQに配慮し過ぎている、という世間の認識は認知バイアスが掛かっていて。もしも興味があれば以下の記事をご参考に読んでみてください。

どちらかというと一企業としてジェンダー差別をしている立ち位置を取っていると私は解釈しています。もしくは同性愛描写を作中に入れると公開できない国があるから商業戦略的に避けたい、という企業思考の可能性が高い(単純にマーケティング戦略としてその選択は正しいのだけれども…)

短編映画「殻を破る」でディズニー作品初のゲイの主人公が登場しましたが、製作はピクサーでした。MCU作品「エターナルズ」でゲイのヒーローが登場しましたが、これもマーベルスタジオが製作でありディズニーは配給です。

ようやく本作にてディズニー製作のディズニー作品の中で、当たり前に普通のこととして描かれました。これは憶測になりますが、現場のクリエイターの方々がディズニー上層部とかなり戦ったのではないでしょうか?

ディズニーが自ら作り上げてしまった固定観念=「白人でブロンドの華奢なプリンセスこそが最も美しく幸せになれる存在」というものをディズニー自らセルフアップデートしています。価値観とは時代によって変わるもの。美しさという価値観も同じ、美しさは時代によって変化していく。だからこそステレオタイプを生み出してしまった自らの過去作をセルフリメイクすることにより、白人以外の人種の方々をプリンセスにキャスティングし直しているのだと思います。

少しずつディズニーがその自身の凝り固まったステレオタイプな思想や価値観を自らの手で改善させている。これはとても重要な挑戦だと思います。ディズニー創立100周年に際して、本作もとても大切なポジションにある作品だと感じました。




参考記事

ディズニーの幹部が同性愛のキスシーン削除を要求、ピクサーのスタッフの抗議により復活

https://japan.thenewslens.com/article/2484/amp

ディズニーがピクサー作品を検閲、同性愛のシーンをカット

https://realsound.jp/movie/2022/03/post-985875.html/amp

ディズニー社CEO、LGBTQ従業員への謝罪と政治献金の見直しを発表。

https://www.tvgroove.com/?p=88803

ディズニーがゲイと言ってはいけない法案への反対を表明

https://www.outjapan.co.jp/pride_japan/news/2022/3/12.html


ディズニー社内の中で少しずつ良い風が吹き始めています。来年は創立100周年記念作品「ウィッシュ」も控えております。どのような素晴らしい作品を公開してくれるのかとても楽しみです。タイトルそのものにも込められたように、きっと夢と希望に満ち満ちた素敵な映画であると思います。
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