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カラオケ行こ!のnetfilmsのレビュー・感想・評価

カラオケ行こ!(2024年製作の映画)
3.6
 中学3年生で合唱部部長の岡聡実(齋藤潤)が突然、ヤクザの成田狂児(綾野剛)から、歌のレッスンを頼まれるという物語の骨子そのものが極めてドリフの「もしも~」シリーズ的なのだが、笑いのツボをことごとく逸している。どちゃくそ滑っていた。『はい、泳げません』で本当は泳げるのに、カナヅチのふりする長谷川博己も相当に痛々しかったが、直近の荒井晴彦の『花腐し』のエンドロールにさとうほなみと山口百恵の『さよならの向う側』を歌った綾野剛の歌は朴訥としており、下手ではあるが音痴とまでは行かないギリギリの歌声だったからヤクザの歌唱を含め、今作の歌唱はハッキリとド滑り申し上げていた。漫画原作ということである程度突飛な演出は覚悟していたのだが、テンポは悪いなりに山下敦弘らしい勘所を押さえた演出やハッとする場面はないわけではない。私が特に感心したのは、思春期の子供が暮らす団地の空間の張りとおかん(坂井真紀)やおとん(宮崎吐夢)との関係性。翻って成田狂児の赤ちゃん期のヒコロヒーと加藤雅也の関係性を含め、本線から外れた昭和の家族構成が妙に堂に入っているのが山下敦弘なのだ。

 然しながら岡聡実と成田狂児とがカラオケでどういうわけで急接近したのかが最期までよくわからない。『花腐し』でも見られた綾野剛の演技の頼りなさは案外深刻で、柄本佑のようなバイプレーヤーでなければある種の化学反応は起こらない。ましてや一回り以上下の齋藤潤が相方となる今作は相当分が悪い。大人びた子供と子供じみた大人との対比というのが物語の肝だとすれば、変声期を迎え、今まで通りのソプラノが出なくなる岡聡実の親愛なる義兄を迎えたイニシエーションの物語でもある。ヤクザに肩入れし過ぎたゆえ、総じて後味が薄くなる合唱部の練習シークエンスも考えものだが、そこに投入する一学年下のストイック野郎のエピソードだけは腹を抱えて笑った。まるで『中学生日記』の欠損部分のようなあの一個下の登場場面の画力こそが山下敦弘のさりげない巧さであり、真骨頂だろう。図らずも映画部でも見られた岡聡実を巡る成田狂児とシネフィル同級生、どうかしてる一個下のトライアングルのBL的な取り合いの駆け引きは実は根底で映画そのものを差配する。ブルーハーツの『キスして欲しい』は本編には無かったが、チャンス大城のオレンジジュースでは不意に笑ってしまった。
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