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千夜、一夜のプライのレビュー・感想・評価

千夜、一夜(2022年製作の映画)
4.8
30年前に失踪した夫を待ち続ける女性を巡るヒューマン・ドラマ。

傑作。公開された年に鑑賞していたら年間ベストだった。田中裕子さんは主演女優賞で尾野真千子さんは助演女優賞だった。

前半は失踪者がいる家族と周囲の人々の世界をドキュメンタリー風味で徹底的に解像度とリアリティを突き詰めて醸成。後半は劇映画として、失踪した夫を待つ妻を演じた田中裕子さんと尾野真千子さんによる渾身の演技が炸裂。タイプ別に失踪者と向き合うアンサーを刻み、余韻を肌身に残していく。

前半の1時間ぐらいまではドキュメンタリー味があり、失踪者を待ち続ける家族や周囲の人間たちの解像度がリアル。おそらく、監督を務めた久保田直さんがドキュメンタリー出身の影響。長回しのカメラで人物たちを捉え続け、失踪者との向き合いを吐露する会話が生々しい。特に、失踪された妻は次なる夫を探して結婚していいのか問題は哲学的かつ実用的すぎる。加えて、田中裕子さん演じる主人公の他にも尾野真千子さん演じる2年前に夫が失踪した女性が登場し、主人公と境遇は同じだけど展望は相違していることからタイプAとタイプBに分けられ、人の数だけ向き合い方があることを提示して解像度とリアリティを更に底上げ。尾野さん演じる妻の夫に関しては、詳細なプロフィールが用意され、実在する人が本当に失踪したかのように感じさせる作りも用意周到。また、田中さんと尾野さんがドキュメンタリー風味にカメラが長く捉え続ける中、自然体でセリフを話し続けた2人によって本作のリアリティは跳ね上がっている。多くの要因によって、失踪者がいる家族と周囲の人々のリアルな世界が醸成されている。

後半の1時間は劇映画。前半のドキュメンタリー風味で作り上げた世界から劇的な展開で傾かせ、タイプAの田中さんとタイプBの尾野さんで向き合い方のアンサーを示している。失踪した夫の年月分を重ねに重ねた想いが爆発する渾身の演技により、2人の出した答えが克明に刻まれて余韻を肌身に残していく。

田中裕子さんと尾野真千子さんがそれぞれ演じた、失踪した夫を待つ妻たちが印象的。田中さんは夫が必ず帰ってくると縋る夢想派で、尾野さんは逆に夫は帰らないだろうと最悪を想定した現実派。対比と同時に、タイプ別に2つのアンサーを出せたのは美味しいところ。夢を取るか現実を取るかの2択にしたのも良バランス。思想の押し付けになってない。


⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐
演出・映像   :⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐
設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐
星の総数    :計19個
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