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ダークグラスのkuuのレビュー・感想・評価

ダークグラス(2021年製作の映画)
3.5
『ダークグラス』
原題 Occhiali neri
映倫区分 PG12
製作年 2022年上映時間 85分イタリアホラー界の巨匠ダリオ・アルジェントが、前作『ダリオ・アルジェントのドラキュラ』以来10年ぶりに手がけた監督作。
イタリア・フランス合作。
事故で視力を失ったヒロインがサイコパスな殺人鬼に脅かされる、“見えない恐怖”を描く。
主人公ディアナを、『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』でイタリアのアカデミー賞と呼ばれるダビド・ディ・ドナテッロ賞の主演女優賞を受賞したイレニア・パストレッリが演じた。
アルジェント監督の娘アーシア・アルジェントも、ディアナを支える歩行訓練士役で共演。

小劇場二夜連闘鑑賞。
 
今作品はダリオ・アルジェントが10年ぶりに監督業に復帰したファンには記念すべき作品かな。
ダリオ・アルジェントは、ホラーちゅうジャンルで最も影響力のあるイタリア人映画監督のひとりであり、後に "ジャッロ "と呼ばれる、スタイリッシュな探偵小説の文脈の中で陰惨な殺人ミステリーを描くサブジャンルの普及に貢献した。
(余談ながら"ジャッロ "てのはイタリアの20世紀の文学ジャンル、映画のジャンル。
フランスの幻想文学、犯罪小説、ホラー小説、エロティック文学に密接にかかわりがあり、日本では、ジャーロと表記されることも多いかな。)
アルジェントの映画は、血みどろの祭典のトーンを設定する視覚的に見事なシナリオを追求し、アートディレクションとセットデザインに特別な注意を払っているため、しばしば一点もの。
この技術的な芸術の細部へのこだわりは『ダーク・グラス』にも再び見られるけど、結局のところ、今作品全体について注目すべき数少ない点のひとつとなっている。

今作品では、冷酷な連続殺人犯が高級風俗嬢を食い物にしており、イレニア・パストレッリ演じるダイアナに狙いを定める。
かろうじて彼から逃れた後、彼女は交通事故に巻き込まれ、目が見えなくなり、チンという少年の家族全員を殺してしまう。
ダイアナが新たな現実に適応しようとする一方で、殺人鬼はその周囲に潜み、行動を起こすタイミングを待っている。

今作品は、アルジェントの頭の中にある『やることリスト』から抽出したモンが脚本にうまく着地しなかったように感じられる。
物語を前進させる多くの要素は便宜上そこにあるもので、ある場所から別の場所へ行くキャラの動機はしばしば疑わしい。
ダイアナがチン少年と仲良くなり、彼女が置かれている状態で一種の母性的な役割を果たすのは、物語の多くの側面のひとつに過ぎない。
そして観てる側は、このような弱い立場に置かれた登場人物たちを応援することになる。
ダイアナとチンの間にわずかなつながりを築き、互いを思いやるようにするために、映画のトーンは完全に変化し、その結果、連続殺人犯が自分が始めたことを終わらせるために戻ってくるという差し迫った危険という、この映画を支えている主張をしばしば忘れてしまう物語になっている。
入り組んだホラーストーリーにドラマを重ねるのは悪いことやないけど、今作品の登場人物は無次元で、ほとんど個性がない。
一方、ホラー自体の構想も稚拙で、物語が進むにつれて緊張感が薄れていく。
どうでもいい登場人物を物語に登場させ、一瞬後に死んでしまうという定石を何度も繰り返し、サスペンスが続くたびに拍子抜けする雰囲気を作り出している。
他のダリオ・アルジェント作品に匹敵するほどグロい演出が冴え渡るので、陰惨な死や大量の血が飛び散るシーンを期待してもがっかりすることはないが、そこに至る経緯があまりに稚拙なため、無関心な味わいが残ることが多い。
これらすべての要素が、今作品の欠点とその優れた資質との直接的な対立を引き起こしている。
アルジェント作品に典型的な見事な撮影とエネルギッシュな編集を除けば、この映画で最も驚かされるのは、『イット・フォローズ』(2015)でディザスターピースが手掛けた傑出したスコアワークをすぐに思い起こさせる、陳腐なサスペンス・シーケンスと目もくらむようなテクノ・ビートが交互に流れる、振動するサウンドトラック。
アルジェントが目指すスタイルと相性がよく、スリリングなシーンの脈打つ緊張感を単独で指揮している。
イレーニア・パストレッリはダイアナ役で一貫して良い演技をしていたが、彼女のキャラは映画を通して成長も進化もせず、彼女の盲目という条件を、効果的にキャラを成長させるために活用することなく、犯人から逃れようとする試みの障害としてのみ使っているように感じられる。
今作品には、スタイリッシュな映画がどこかに紛れ込んでいるんやろけど、結局はテーマ性を欠いている。
アルジェントの作風は視覚的に表現されているが、脚本が作品を貶めた真犯人かな。
その結果、暗殺者の存在さえも、スコアが懸命に設定しようとしている呪われた雰囲気を支えられない、拍子抜けするようなホラー映画になってしまってたかな。
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