しの

ヴィレッジのしののレビュー・感想・評価

ヴィレッジ(2023年製作の映画)
3.4
主役の横浜流星に救われていると思う。この監督の作品らしく、例によって効率や理屈優先で表層的な内容に終わりそうなところを、彼の力で映画に血が通っているように見えた。モロに日本のどん詰まり感にやられ、マジで怒っているのだと思える。単に予定調和な転落劇にしない激情があった。

立ち上がりは鈍重だが、主人公の人生が逆転していく過程になるとやたら性急な紋切り型になる。またこういう感じか……と思いながら観る部分もあったが、しかし今回は物語を能と絡めているので全体に説話っぽさがあるし、これも夢なのでは? という演出としても観れるようになってはいる。そもそも能の使い方からして表層的といえばそれまでだが、しかしここに横浜流星演じる主人公の純朴であるが故の脆さ危うさ、そしていつ爆発するとも知れない怒りのエネルギーが加わることで、能面の視線が作品全体を覆う怪しげな不安として機能する。予定調和さに説得力が出てしまうのだ。

確かに、日本がどうしようもなく「詰んでる」のはもう分かってるから今更こんな話見せられても……と思うかもしれない。しかしむしろ自分は、終盤で主人公がとる行動を哀しくもどこかカタルシスのあるものとして提示できている点において価値はあると思う。当然、この村を良くする方向には向かわないの? という疑問も湧くが、そこが寓話の良さというもので、要は「一度ちゃんと村のシステムをクソだと認めてその舞台を降りるしかない」ということだと思うし、自分は共感できた。そうした表明がエンドロール後に繋がると思えば希望的だろう。まずはこんな村クソだ! と表明する所から始めないといけないのだ。

ただ辟易する描写も相変わらずあり……。例えば能面の人々を見て黒木華が語るセリフの野暮ったさったらない。あるいは人物造形にしても、やはり全体的に記号的ではあると思う。特に村長の息子はいかにも役割的な悪だった(しかしこれも役者の好演でしっかり憎らしさを感じられる)。

また、「普通それやったらマズいって分かるよね?」みたいな(やりたい展開優先の)話運びは相変わらずだが、今回はある種の寓話であり説話なので比較的看過できた。それより個人的にはもう少し村社会のイヤさを出しても良かったと思う。村の人々が後半にかけてどんどん後景化していくのは勿体ない。

正直、エンドロール後のオチのつけ方とか、凡庸すぎて小っ恥ずかしい部分も多い。自身のことを職人的な監督と言うだけあって、作品をまとめる構成力だけがあって深く刺さり辛い作りではある。しかし今回は寓話的なモチーフと役者による熱演により、自分は同監督作の中でも比較的楽しめた。
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