ひこくろ

ノック 終末の訪問者のひこくろのレビュー・感想・評価

ノック 終末の訪問者(2023年製作の映画)
4.5
怖さの質が徐々に変わっていくのにぞくぞくとさせられる不条理SFホラーだった。

最初の怖さは、理不尽な暴力によるものだ。
理由も何もわからないまま、突然、家に押し入ってくる四人の男女。
その様子には何をしでかすかわからないサイコパス的な怖さがある。
エリックとアンドリューを縛りつけておきながら、いきなり自己紹介を始める辺りでその怖さは高まっていく。

が、そこからだんだんと怖さが変化していく。
彼らは暴力を振るうこともなく、ただ「家族の一人を生贄に捧げて世界を救ってほしい」と頼みだす。
当然、エリックもアンドリューも、娘のウェンも何を言われているのかわからない。
ただ、彼らは真剣そのもので、自分たちが真実を語っていることを証明するために、仲間を一人一人惨殺していく。
ここに至って、カルト宗教の信仰のような怖さが滲み出てくる。

でも、怖さはそこで終わらない。
また、形を変えてくる。

彼らが一人、また一人と死んでいくたびに、実際に世界が終わる予兆が起こりはじめるのだ。
それでも、エリックたちはまだ信じられず、彼らがトリックを使い、自分たちをはめようとしているのだと疑う。
現実的に考えれば無理がないことだろう。
でも、次第に状況はリアルに迫ってくる。
ヴィジョンを見て、世界の終わりを知ってしまった彼らは、そうしなければならないのだとわかってくる。
それをエリックたちに伝えきれないもどかしさ。そして、どうしても理解できないエリックたちの側のもどかしさ。

お互いに相通じないまま、ただ世界の終わりだけが刻々と迫ってくる。
そこにまた違う新しい怖さが現われる。
そして最後は、家族のうちの誰かを犠牲にしなければならないという怖さに変わる。

徐々に変化していく怖さはすべてがタイプの違うものなのに、地続きで変わっていくのがすごい。
そこに過去回想を絡めて、エリックたちの家族の姿を描き出していくのも見事だった。

ちょっと見ないタイプの、本当にいろんな面でじわじわと怖くなる映画だった。
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