ナガエ

パレスチナのピアニストのナガエのレビュー・感想・評価

パレスチナのピアニスト(2020年製作の映画)
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メインで描かれる、プロピアニストを目指すミシャは、なかなか凄いと感じる。ピアノの素養がないので分からないが、彼は10歳からピアノを始め(プロを目指すような人がピアノを始める年齢としてはかなり遅いのではないか)、その3年後に国際ピアノコンクールで優勝している。

もちろんこれだけでも凄まじいと思う。しかし彼の凄さはこれだけではない。なんと、1日の練習時間3~4時間しかないというのだ。そこには、彼特有の非常に特殊な問題が横たわっている。

彼は、パレスチナ自治区内のラマッラという地域に住んでいるのである。隣接するイスラエルと紛争を抱えており、両者の間には検問所が設けられている。普通なら車で1時間ほどでつく距離にいる、ユダヤ人のピアノ教師の元に通うのに、検問所を通らなければならないため3時間も掛けている。しかも検問所は、両者の情勢が不安定になると閉鎖されてしまう。そうなるとミシャは、パレスチナ自治区から出られなくなってしまうのだ。

そもそもパレスチナ自治区には、音楽の専門学校が存在しない。だから彼は、普通の学校に通いながら、ピアノの練習も続けているのだ。そんな環境にも関わらず、14歳の時に出たコンクール終了後、交響楽団の監督だという人物から「ソロコンサートを開かないか」と誘いを受けている。監督も、彼が4年前にピアノを始め、1日に3~4時間しか練習出来ていないと知って驚いていた。

映画は、彼の日々を淡々と映し出す。正直なところ、そこまでドラマチックな何かが描かれるわけではない。父親からは「神経外科医」になった方がいいと言われる。彼は学校の成績も優秀なのだ。楽器店では、ラマッラの子どもたちにピアノを教えてよとせがまれる。音楽の専門学校がないのだから、少なくともパレスチナ自治区から音楽的なスターが輩出されたことはないのだろう。それ故に、不安や期待が彼に集まってくる。

そんな中でも彼は、シンプルに「演奏をしたい」「プロになりたい」という気持ちを高めていき、ピアノの先生やロシア人の母親と共に、その夢の実現のために奮闘する。

コロナ禍になってしまったこともあり、彼の挑戦は足踏みが続いているようだが、映画のラストでは、イスラエル・オペラ・オーケストラでのオーディションの様子が映し出され、高評価を得ていた。なかなか厳しい世界だと思うが、こういう才能がある人はどうにか報われてほしいといつも思っている。

紛争や戦争といった外的要因に阻まれずに、彼が良いと感じる道を正しく進めますように。
ナガエ

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