こたつむり

聖地には蜘蛛が巣を張るのこたつむりのレビュー・感想・評価

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
4.0
♪ ピンクスパイダー ピンクスパイダー
  桃色のくもが 空を流れる…

これはミステリじゃあないですね。
言うならば社会派サスペンス。イランで起きた連続娼婦殺人を軸に、女性差別や職業差別などを掘り下げた物語。かなり骨太な作品でした。

何しろ、冒頭から衝撃的。
娼婦である女性が着替える場面から始まるのです。中東では裸とかタブーじゃないですか(それこそ髪の毛を露出させるのもダメですから)。それを臆さずに描くところに覚悟を感じます。

また、そこから先も刺激的。
街中に娼婦がたくさんいる…とか。クスリが蔓延している…とか。イスラム教の影響でかなり厳格だった中東のイメージがガラガラと崩れていきます。

でも、考えてみれば当たり前ですよね。
西だろうが、東だろうが、北だろうが、南だろうが、人間は人間。闇も光も同じようにあるんです。文化の差や、貧富による生活レベルの差はあるかもしれませんが、意識に大きな差がある筈はないんです。

だからこそ。
娼婦は死んでもいい…そんな偏見(というか宗教観)に凝り固まった人たちに恐怖を抱き、人を死に至らせる偏見(というか宗教観)の是非について深く考えちゃうのです。

いやぁ。これは傑作ですよ。
ミステリと謳っているから勘違いしちゃいますけど、イスラム世界の一面をソリッドに描いていますからね。見慣れない世界観と相俟って、かなりの歯応えです。

仕上げたのはアリ・アッバシ監督。
あの問題作『ボーダー 二つの世界』の監督さんですね。そりゃあ、露悪的とも言えるリアリズムも納得。こういう人を「鬼才」と呼ぶのでしょうね。今後の活躍に期待です。

それにしても。
よくこんな作品をイランで作れたなあ…なんて思ったら、実はデンマーク(含む多国籍)の映画だったんですね。しかも、撮影はヨルダンだとか。そりゃあ、こんな内容を許すわけがないですよね。

まあ、そんなわけで。
多かれ少なかれ、映画鑑賞は人の意識を拡げる効果がありますが、本作はかなり強引にグイグイと拡げてきますんで…注意が必要です。でも、それに抗うことなく、受け入れることが出来れば…きっと心に残る作品になるでしょう。
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