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クライムズ・オブ・ザ・フューチャーのhasisiのレビュー・感想・評価

3.4
今よりそう遠くはない未来。
人類には、自らが造りだした人工的な環境に適応するように、生物的構造を変化させた者たちが現れていた。
様々な未知の臓器を持って生まれる新人類。
彼らの遺伝子が増殖し、従来の人類が絶滅することを恐れた政府は、臓器登録所を設立し、彼らの動向をつぶさに監視している。

そんな環境下、加速進化症候群によって多くの臓器を生み出すソール・テンサーは、公開手術で臓器を摘出するアーティストとして名を馳せていた。

監督・脚本は、デヴィッド・クローネンバーグ。
2022年に公開されたSFボディーホラー・ドラマ映画です。

【主な登場人物】👩🏻‍⚕️💍
[ウィペット]全米臓器登録局。
[エイドリアン]生態形成学者。
[カプリース]相棒の彫り師。
[コープ]刑事。
[ジュナ]ラングの妻。
[ソール・テンサー]主人公。
[ティムリン]国立臓器登録局。
[ナサティア博士]元美容外科医。
[バースト] 認証技術者。背の高い方。
[ブリッケン]ラングの息子。
[ラング]とある組織の人間。
[ルーター]認証技術者。

【感想】🔪🫁
『ザ・フライ』のクローネンバーグがボディーホラーへの原点回帰。
監督は1943年生まれ。カナダ出身の男性。御年81才。

タイトルを直訳すると「未来の犯罪」
製作が立ち上がったのが2003年で、その後に立ち消え。2021に復活をとげたらしい。

今年も低予算はホラーが安定。
少なくともレンタルに来る作品は配信のみと違い、配給会社が日本人でも面白いと感じるものを買い付けているはずだけど。最近は、ぴんとこないものが増えた印象。
各国の文化に正通している必要があり、ドラマ映画への対応の難しさを感じる。
それに比べると、恐怖は人類共通なので分かりやすい。お化け屋敷には人種も国境もない。

🫀〈序盤〉✂️👩🏻‍🍼
冒頭から「え⁉」
台詞無しで全て伝わる無声映画のようなカメラワークと演出。
『Dr.スランプ アラレちゃん』を思い出した。

息子が親殺しを撮った後に、父親が子殺しを撮って何というハンムラビ法典親子。
けど、息子の方が一枚上手。何せゴキブリのような生命力で死なねえからな!
(親の愛を感じるぜ)

マゾヒスト+エゴイズム=世界への浸食。
人類がクローネンバーグ化したディストピア。
映画だと、ファンが喜ぶ残酷な世界として体験できるので平和。
現実世界を変革させようとしていないので尊敬できる。
変態監督の幸せそうな老後。何も共感できないけど、羨ましい。

一方で、宗教の勧誘という形で現実の世界に現れるとカルトに。
痛みを味わうことで生きている実感を得たい部類の人間が、延々と自分の性癖を喋りつづけ、いまの社会に必要であるかのように伝道する異常さ。

「精神力が弱体化した」と都合のいいように解釈して、現代人を否定。
昔はよかった、と涎を垂らしている。
心の弱い人を洗脳していないで、「スポーツジムでも経営しろ」
根性勝負大好き人間が思い描く理想の社会を真に受けないように注意。

🫀〈中盤〉👂🧵
提示される終盤の予告がえぐい。能力「倍返し」に喧嘩を売った代償。
映画で親を殺せば、親が子供をすり潰しにくる。

多情な快楽主義者が美しいとされる世界。
社会のルールを自分で創造する自由。
たとえば、芸能界から抹殺され、地獄の亡者と戦う有名人ご苦労さま。
映画内であればすべての性癖が許される。

🫀〈終盤〉⚰️👦🏻
自然を汚す廃棄物への対処方法の想像。
SFスカトロ。

残酷ショー。
死ぬ前に禁忌に触れる。失うもののない老人監督にしか撮れない異常者の所業。
酷すぎる。
地獄に堕ちるのが怖くないのだろうか。

【映画を振り返って】🍫📌
進化した人類が、人体を切開して楽しむ趣味の世界。
ずっと、切ったり、縫ったりする上に、じょじょにエスカレートしてゆく。
作り物で血も少量だが、時々心にくるものがあった。
公開当時は「途中で席を立つ者が続出」の売り文句も納得の出来栄え。

設定の小出しと雑談。
物語性は低く、世界観や哲学を楽しむことに重きが置かれている。
お爺ちゃんの寝言に付き合っている気分に。
退屈という痛みを味わってゴールするのも一苦労。骨が折れた。

🪑変態の機械。
デザイナーのキャロル・スピアによっていくつかの魅力的なガジェットが発表されている。
ファンはこれらが動いている光景を見るだけでも価値があるだろう。

ちなみに、ポスターに採用されている動物の骨を組み合わせたようなデザインの椅子「ブレックファスター・チェア」は、劇中に登場する中でもとくに意味不明な道具であるが、
食事中の老人の体を揺さぶることで消化を手助けする椅子。
寝たきり老人の介護で使われる「床ずれ防止マットレス」のようなものだと考えて問題ない。

🤤快楽一本勝負。
全体で1つのプレイと位置付けてある。胸糞のわりに途中笑える場面もあり、鑑賞後感も爽やか。
これだけ娯楽と芸術の垣根を感じさせない映画も珍しく、作り手としての老獪さを感じた。

未来の想像、ガジェットのアイデア、タブーを踏み越える頭のネジの飛び具合。
年老いてなお時代に適応してゆく柔軟さ、独創性、性欲など、70代の終わりに撮ったとは到底思えない力を発揮している。
あらためて「才能のある監督だな」と思わされた。

ちなみに劇中に登場する新人類は、SMで重要だったはずの、痛みを感じない。
その分、ためらいなく自分の体を切り刻める。
それって気持ちいいの?
とは思うけど、痛みはスクリーンの前に座っている観客には伝わっている。

この映画は、自分の快楽を捨ててまで、観客を楽しませる演者に徹した、奉仕型マゾの究極の愛でできている。
人間の貪欲さを維持したまま達観した者にだけに見える地平。
あまたの経験を重ねてきた分、第一線で働き続ける老人から学ぶことは多い。
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