空の落下地点

ショーイング・アップの空の落下地点のレビュー・感想・評価

ショーイング・アップ(2022年製作の映画)
3.3
ライカート監督ってこんな良い映画作る人だったんだ。
最初、自殺計画中の女性と思わせて~。リジーが道端で何か漁ってるように見えるシーンもあるし。この映画は、風変りな女性に向けられる差別的視線を炙り出している一方で、その風変りな女性の中にも後ろ暗い視点が隠されていることを、二重に暴露しています。
リジーの陶芸作品は、ドガの踊り子をホームレスが真似したみたいな女性たち。釜から出てくるなんて、まるで地獄から生まれたかのよう。
リジーは自分が社会からどう見られているか、というメタ視点を持っていると思います。だからこそ、猫の罪を隠した。もともと後ろ指差されてるのに、更に凶暴な猫を飼っている躾けも出来ない悪い飼い主だなんて言われたくなかった。
この出来事を経てからリジーの作品を観ると、釜から出てくるのが出所に見えなくもない。刑務所の労働で体が曲がってしまった女性たち。顔色も悪く、精一杯お洒落してみるけどもう罪を犯す前の自分には似合っていた服が似合わなくなっている。
あるいは冤罪。魔女狩りから続く弱者への不当な刑執行。手を掲げてるのなんて神様と交信してるみたいだし。猫の罪を隠してから作品の腕を曲げるのは、罰を与えたのでは。善行も悪行も、全ては手から始まる。腕-手が不具なのは、心が不具であること。伝達の不具合、伝達不能。それは、与える悦びを享受できないことでもある。有難うと言ってもらえる機会が圧倒的に減る。
鳩が気持ち悪い、という生理的反応。兄が疎ましい、という反射的感情。この映画は、人間存在を極限まで讃えている。人は、自らを護ろうとする。生まれながらにして罪を負っている。生きる為に他者を蔑ろにする才能を持って生まれて来ている。一方で、自己防衛心と庇護欲求は両立する。「心臓発作かしら」と鳩を純粋に心配する時の表情。罪悪感から愛が生まれるわけじゃない、と信じたい。
最後、鳩が飛び立った時の表情。厄介払いできて嬉しい、と思わない自分が意外だったこと。嬉しい、と思った。鳩の回復と成長を歓んだ。意外な自分を発見することが、生きるモチベーションになる。上を向かせてくれた鳩に感謝。陶芸もリジーの作品だけど、鳩の援助もリジーの作品-結果なんだ。ジョー日系説を唱えたい。ジョーと友だちだったから、鳩との交流が生まれた。異文化に価値観をかき混ぜられることを、歓迎すべきである。
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