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リバー、流れないでよのドントのレビュー・感想・評価

リバー、流れないでよ(2023年製作の映画)
3.7
 2023年。ゆかい痛快! 劇団・ヨーロッパ企画が仕掛けるハイスパート・ループ・ムービー。京都は貴船にある旅館周辺が突如として時間をループしはじめる。人々は記憶を保持してはいるが、一定時間を過ぎると世界が暗転してゼロ秒ポイントに戻されてしまうのだ。その間隔、わずか2分。とにかく2分経つとみんなスタート地点に戻る。こ、これはなんなんだァーッ! 助けてェ~ッ!
 ループものの映画というのはだいたい話の型が決まっている(断言)。ループの原因は神通力とか魔法とかSFとか。主人公や登場人物たちはそのループに最初は気づかず、やがて気づいて混乱し、おかしくなり、不条理を嘆く。やがて怒りや泣き言が出現してきて、そんな中で「これじゃいかん」という者が現れて真相に迫っていく。繰り返す時間の中で人々は自分の抱える問題や人間関係などを見つめなおし、やがて脱出策が実行に移されるまでの狭間、あるいは経過の中で、問題が半ば強引に解決されていく。なお、その問題自体がループの原因であることもある。
 本作もほぼこのループものの定型をなぞっていると言わざるを得ない。が、しかし、2分である。ツイッターの動画2分20秒より短い。ループ2回目で「おかしいよね……?」となり3回目で「おかしい」と気づく。早い。理系の板前が登場し状況と事態をテキパキと調査説明していく。早い。理系の板前って何だよ。出るんだから仕方ねぇだろ。理系の板前が「とりあえず皆さん落ち着いて! こういうこは揉めたりするのが一番よくないですからねっ!」と言った次かその次の周でもう揉める。とにかく早い。
 言い忘れたが本作、旅館の若い女性従業員が主人公。カメラは調査や説明を聞かされるばかりな立ち位置の彼女から離れない。それゆえカッタルい帳尻合わせになりがちな真相解明パートは主に「皆さん説明します!」「わかってきました!」とみんなを呼ぶ時以外は登場しない理系の板前が担当してくれる。いや理系の板前がいるんだよ! いるの! 観客は彼女の視点から、勘定合わせや推理などという厄介ごと抜きのゆかいなドタバタ劇やドラマを観賞できるという寸法だ。
 さらにすごいのはループする2分、これがほぼ全て長回しノーカットの2分なのである。これを何回も何回も何回も何回も、延々と延々と延々と延々と繰り返す。2分経ったら主人公が川辺にいるショットに戻る。ドタバタとワタワタがあって、2分経ったら主人公は川辺。これを20回以上やっている。時折変化がついたり急に人が死んだりするが、2分×二十数回のリスタート長回しというのは、なかなか正気の沙汰ではない。
 ループモノの定型を踏んでいるにも関わらず、これらの工夫とツイスト(これは観てのお楽しみ。脱力必至)によって型通りのつまらない作品から見事に脱している。ただし難点もある。登場人物全員に台詞や見せ場が馬鹿丁寧に用意されているのはまぁよいとしても、劇団映画であるからか、台詞回しや役者の演技がいかにも舞台っぽくてコチコチであり興が削がれる。そのためせっかくのチャレンジングでハチャメチャな内容がツルツルと入ってこない。演技は上手いんですけどね。三國連太郎が昔言っていたらしい、「映画の演技はね、どこか間抜けじゃないといけないんですよ」との言葉を思い出す。
 難点はあれども全体におもしろくて楽しい映画であった。なんというかね、正月の昼に、こたつに入りながら観たい作品ですね。これは下に見ているのではなしに、そういうあったかさとユッタリさがある、という意味です。冬で雪が降ってる貴船が舞台だしさ。実況向けとも言えるかもしれない。「ワハハ!」「わーっ!」「なにーっ」とか言いながらみんなで楽しみたいムービーでした。
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