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キャスター付きベッドのzhenli13のレビュー・感想・評価

キャスター付きベッド(1907年製作の映画)
3.8
最初の映画とされるリュミエール兄弟のそれが「記録」であったことに対し、ファンタジックな奇想天外なもの、映画でしかできないものを表そうとしたのがアリス・ギイとのこと。
ファンタジックな見世物的映画として一般的にメリエスが挙がるが、メリエスの作品が奇術やオカルトの延長や現実から全く乖離したSFなどの表現だったのに対し、アリス・ギイのそれは日常生活の延長にある奇想天外なアイデアだなと、本作を観て思った。これがこうなったら面白そうという、子どもが考えそうな奇想を具現化する。
日常生活の延長にあるギイの奇想には、当時の社会が抱える(そして百年以上後の現在に至ってもある普遍的な)問題であったり文化風習からくる抑圧であったりが反映されてる。たった1分から数分の間に。

『キャスターつきベッド』は破産によりベッド以外は全て差し押さえられ追い出された男とキャスターつきベッドが端を発する。坂の多いパリの小路を縦横無尽に下り続けるベッド、群がり追いかける圧倒的な数の人々、躍動感をいや増す犬たち、そのダイナミズム。トリック撮影によって狭く急な階段を下るベッドは『戦艦ポチョムキン』のオデッサの階段を髣髴とさせるし、なにより小路に住まう裕福では無さそうな市井の人々の味わい深さや活気は、ルネ・クレール『巴里祭』やアニエス・ヴァルダ『ダゲール街の人々』を思い出す。『映画はアリスから始まった』によるとエイゼンシュテインは幼少期にギイの作品を観ていたとのこと。

川越スカラ座 弁士・伴奏付き「アリス・ギイ短編集」上映会にて
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