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その瞳に映るのはのmaverickのレビュー・感想・評価

その瞳に映るのは(2021年製作の映画)
4.3
2021年のデンマーク映画。第二次世界大戦中の実際の出来事を基にした悲しい物語。


かなりヘビーな作品性で、戦争の悲惨さを伝えるに十分な話である。誤爆によって学校が破壊され、職員と多くの子供が犠牲となった酷い事実を描く。子供から大人までの幅広い登場人物による群像劇となっており、丁寧に描かれた人間ドラマが物語に深みを与えている。それぞれに皆、この時代を生きていた人達。そのささやかな幸せが一瞬にして失われる残酷さに恐怖する。

無邪気な子供たちとは対照的に、力で押さえつけられていた大人たち。主要登場人物の中には予備警察としてゲシュタポを支援するHIPOに入隊した青年もおり、国を売る行為だと父親からも激しく罵られている。街中で粛清が行われたりと、当時のデンマークの不安定な情勢をうかがい知ることが出来る内容である。ナチスドイツの蛮行を止めようと攻撃を画策するイギリス空軍。その正義の行為があのような悲劇を引き起こすとは。これだから戦争は虚しいのである。

このような状況下で「神は本当におられるのか」と、その存在に疑問を感じている修道女のテレサ。彼女も主要人物の一人であり、寄宿学校で子供たちの世話係を務めている。HIPOの青年フレデリックは、シスターである彼女に救いを求める。自然と絡み合う登場人物。それぞれの立ち位置からこれらの人物を配置した脚本が見事である。役者も全員上手い。失語症となった少年ヘンリーを演じた男の子は大人顔負けの迫真の演技だし、本作のジャケットにもなっている少女エヴァを演じた子役の女の子の存在感もピカイチである。親たちにも感情移入するし、娘エヴァのために必死に街中を駆ける母親のシーンは涙が溢れた。みんなそれぞれ人生がありその時を生きていたのだと、そう感じさせる物語に胸が締め付けられる思いであった。

核である人間ドラマがしっかりしているだけでなく、イギリス空軍の空撮描写なども優れている。コペンハーゲン市内で爆撃を敢行するシーンなど、CGとは思えないぞっとさせるリアルさに満ちていた。出撃してからの目標に徐々に迫る辺りのシーンは心臓がバクバクしてひたすら怖かった。圧巻の戦闘描写が戦慄である。


テーマ的にも、デンマーク映画としてはかなりの大作なのではないか。Netflix配信限定のために本作が埋もれてしまうのはもったいない。もっと多くの人に認知されてほしい作品だ。ウクライナで起きていることもこれと同じではないか。戦争はこのような悲劇を引き起こす。そうした現実から目を背けてはならないのだ。
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