SANKOU

かがみの孤城のSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

かがみの孤城(2022年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

原作を読んだ時はこれぞ辻村深月の真骨頂だと思った。
まずはファンタジーとしての設定の面白さ。そして重くなりすぎない程度に、でもしっかりと登場人物が抱える心の痛みはリアリティーを持って伝わってくる。
ミステリーとしての面白さも抜群で、伏線の回収の仕方は見事の一言に尽きる。
どうしても文庫本にして上下二巻の長編であるから、映像化するに当たっては省略しなければならない部分が増えてくるだろうなとは思った。
主人公のこころの主観がメインになるため、他の登場人物たちのドラマが希薄になってしまうのは致し方ないことか。
ある日突然に鏡を通して孤城に連れて来られた7人の少年少女たち。
オオカミ様と名乗る覆面を被った幼い少女が、彼らに「この城のどこかにある鍵を探し出せば、どんな願いでも叶えてやろう」と口にする。
ただし願いが叶うのは一人だけ。そして期限は一年。
お互いに学校のことは口にしないが、彼らが日ごろ学校へ行っていないだろうことは想像できる。
そしてこころはある同級生からの嫌がらせにより、学校へ行くことが出来なくなってしまった。
こころ、アキ、リオン、スバル、フウカ、ウレシノ、マサムネの7人は、城での時間を共有するうちに、お互いの心の内を知り、強い絆で結ばれていくようになる。
そして外の世界でそれぞれに問題を抱えている彼らにとって、この孤城は現実から逃れられる唯一の場所でもあった。
いじめを描いた作品は数多くあるが、この作品のような戦い方を描いた作品はあまりない気がする。
こころは学校へ行かないのではなく、行けないのだ。
それを逃げや甘えだと指摘する人間もいるだろう。
それは過度な心理的、もしくは身体的なストレスをかけられたことのない人間が口にする言葉だと思う。
真面目で優しく責任感がある人間ほど、こころのような状況に陥りやすいのだとも思った。
彼女は好んで引きこもり生活を続けているわけではない。
彼女は外に出られないという罪悪感とも戦っているのだろう。
彼女には親しい友人もいたのだが、今ではその友人も自分に好意を抱いてくれているのか、彼女には自信が持てない。
外の世界で無条件に彼女の味方になってくれるのは、喜多嶋というフリースクールの先生だけだ。
彼女はこころの気持ちに寄り添い、こころが今必死で戦っていることを理解しようとする。
物語が進むに連れて、様々な謎が明らかになっていくが、この映画のテーマはやはり人は助け合えるということだろうか。
孤城という舞台設定もどこか孤独を連想させるが、人は一人で戦うには限度がある。
どれだけ周りが敵だらけに思えても、絶対に自分の味方になってくれる人間は現れる。
その差しのべられた手をしっかりと掴みとることが出来るか。
この孤城は7人にとっての逃げ場ではあるが、実は時間内に鏡を通って元の世界に戻らなければオオカミに食べられるという衝撃のペナルティが存在する。
そして連帯責任で一人がルールを破れば、その日に孤城にいた者たちもオオカミの餌食となってしまう。
最初はこの設定だけが作品の世界に似つかわしくない程に残酷だと感じた。
しかし最終的にはこの極端な設定が、より人は助け合えるのだというメッセージ性を強調していたことに気がついた。
原作の世界観を忠実に再現しているとは感じたが、個人的にはワンシーンだけ余計な遊び心によって白けてしまう部分があった。
背景の描写がとても美しく、特に海に浮かぶ孤城の描写が秀逸だった。
SANKOU

SANKOU