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PIGGY ピギーのhasisiのネタバレレビュー・内容・結末

PIGGY ピギー(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

監督・脚本は、カルロタ・ペレダ。
2022年に公開されたホラー・スリラー映画です。
※アラスジを最後まで。その後に感想を。⚠️

【主な登場人物】🚐🥘
[アスン]ママ。
[弟]生意気。
[エレナ]クラウの母。
[カルロス]若い治安警備隊。
[クラウディア(クラウ)]金髪。
[伍長]ベテラン治安警備隊。
[サラ]主人公。
[トマス]パパ。
[ペドロ]イケメン。
[マカ]高身長。
[ローザ]ウエイトレス。
[ロサ]ウエーブ。

【アラスジ】🍹🍩
ペレダ監督は1975年生まれ。スペイン出身の女性。
90年代後半からテレビの脚本家としてスタート。監督も数多く手掛ける。
今回が長編映画デビュー作です。

🐖〈序盤〉👙🎒
現代。スペインの内陸部に位置するエストレマドゥーラ州のカセレス県にある自治体、マドリガル・デ・ラ・ベラ。
人口、2000人に満たない小さな町は、灼熱の太陽が降り注ぐ夏の季節を迎えていた。
日中は30度前後。最高気温は40度を越す時期。学生たちは3ヶ月の長い夏休みを過ごしている。
10代のサラは肉屋の娘で、160センチで90キロを越すぽっちゃり体系。
内向的な性格で無口。働く父の隣で店番をしている間、宿題をこなしながら、ヘッドホンで音楽を聴いている。肩まである髪の横の毛を少し口に含む癖が治らない。
父の仕事に付き合い、ハンディングの腕は一流だ。

窓の向こうの広場には、遊んでいる同級生の群れ。オフロードバイクが趣味のペドロは事故の影響で、左の手首にギブスを撒いている。ペドロが幼馴染のクラウにハグするから、サラはがっかり。
女子3人とペドロは夜の祭りの前に滝に遊びに行く予定。
食料調達で、サラの店へ。
両親とサラは写真を撮られ、マカがSNSに勝手にアップ。クソデブ。♯3匹の子豚 でポストされてしまう。
大型冷蔵庫の天井から吊るされた塊肉にもたれかかって絶望していると、間違って「いいね」を押してしまう。かっとしたサラは思わず携帯で肉をサンドバックのように殴った。
死体のように床に転がっていた悪戯っ子の弟を足で起こして外へ。

夕食は進まず、同級生の楽しそうなTikTokを見てため息。
翌朝は、徒歩で開園前のプールへ。ビキニ姿で水に入ろうとすると、水中から大柄の男が勢いよく浮上してぎょっとする。
さらに、プールを見下ろす橋の向こうから女子3人組みも現れてからかう。
「ピギー、彼氏ができたの?」「ハムで釣ったの? それともバラ肉?」「ブー、ブー」
髭の男は罵声が耳障りなのか退却。
消えたいサラが素潜りして浮上すると、頭にプール掃除用の落ち葉すくいネットを被せられる苛め。
「ブタ鯨を捕獲する!」
3人はサラの洋服とナップサックを奪って逃げた。

走って帰宅を目指すサラは、車に乗った3人組みの男性に追いたてられる。息が苦しくて歩きだすと、2人が降りてきて並走。ビキニの紐をほどかれ、尻を何度も叩かれる。ひとしきりからかうと満足したのか、車は走り去った。

近所の森の小道。不審な白いライトバン、シトロエン・C15の隣を通過するサラ。
広々とした荷物室のバックドアには、血だらけのクラウの姿が。
運転席のドアが開くと、プールにいた髭面の大男が姿を現した。男が眼光鋭く見つめるからサラは失禁。男はクラウのバスタオルを地面に置いてくれた。
サラは震える手を挙げて「ありがとう」のサイン。車は助けを求める幼馴染を乗せて走り去った。

自宅に戻ったサラは、父に頼まれてお使いへ。雑貨屋で蛍光灯とコーラを購入。お駄賃でグロリア社のピンキー。55グラムのスポンジケーキをピンクのチョコでコーティングしたお菓子も購入しようとするが、馴染みの店員に「やめとけば」と注意されて諦めた。

プールに沈められていた監視員、ロバーの水死体が発見されて町は騒然。犯行現場に人が群がり、治安警備隊が現場を隔離した。
母は「娘はいつも午前中にプールを訪れていた」と伍長に申告するが、サラは「来ていない」と嘘をついた。しつこいから、
「ママは全然わかってないっ。あいつらは私をピギーって呼ぶの!」
夕食。母は静かに立腹し、ダイエット中の娘にはサラダだけを提供。弟はブタの鳴きまねをして姉をからかった。

🐖〈中盤〉🌃🚬
夜更けの自宅。クラウの母、エレナが行方不明の娘を捜して訪ねてきたが、母とは仲が悪くて追い返した。
西瓜を食べ終わって部屋に戻ると、窓際にピンキーが置いてあった。不審に思ったが、サラは食欲には勝てず、夢中で頬張った。
銃の手入れをしながらテレビを見ている父の注意を缶ビールで引き、携帯を借りて出発。
盗まれたナップサックを捜して夜道を彷徨う。
バンが止まっていた場所で剥がれたネイルを発見。
――牛と遭遇。昨晩の牛追いで闘技場から雄牛が逃げたとテレビのニュースで言っていた。
自分の携帯に電話をかけながら森の中へ。

廃工場の前でナップサックと携帯を取り戻したが。
背後に髭の男が立っていた。分厚い胸板で筋肉質。見上げるほどの大男である。右足が不自由なのだろう、引きずって歩く。
森の向こうに人口の光。クラウの家族だろう、車が停車して騒がしい。携帯のGPSを頼りに、付近を捜索しはじめる。
サラは男に手をひかれ、隠れるように廃工場へ。
2人は壁の裏に隠れて見つめ合い、互いの呼吸を感じていた。それから男は床に落ちていたクラウの携帯を握り、囮を志願したように闇に消えた。

部屋に戻ったサラはベッドに仰向け。男を想像しながら陰部をまさぐった。
ぼーとしていると、ペドロが会いに来て外へ。
彼らのグループチャットに、サラが落ち葉すくいネットで苛められる動画が載せられていたらしく、警備隊に「プールには行っていない」と偽証したのを咎められた。
苛めを訴えると同情され、はじめて大麻を喫煙。

娘を捜すエレナたちが再びやってきて、ウエイトレスのローザが殺され、付近でクラウの携帯が見つかった事を知らされた。
クラウたちの居場所を執拗に聞かれるが、騒ぎを聞きつけた母が乱入。娘を守ろうと取っ組み合いの喧嘩に。
親子は兵舎へ。警備隊2人から事情聴収される。
サラはプールに居たこと。苛めと盗難を告白したが。そこから先を話そうとすると、なぜか母が黙秘権を行使。娘を家に連れ帰った。

🐖〈終盤〉🏭⛓️
深夜の自宅。髭の男が2階の寝室に侵入して下着を漁っていると、父と遭遇。
父は置物で殴られて、ベッドでチョークスリーパー。床に転がされてゴリラのようにドラミング。それから顔面に鋭い踏みつけが飛んできて青色吐息。

気がついてない玄関の母は、血のついたクラウのバスタオルについて娘に追及する。
「正直に話してくれないと助けられない」
「うるさいっ。ママもあいつらと同じよ。みんな死ねばいいんだっ!」
母が平手を振り上げると、二階から下りてきた大男が手首を掴むから仰天。
「にげて」と咄嗟に告げた母は、オープンブローを側頭部に喰らって転倒。
弟が寝ぼけて隣を通過。トイレの便座に腰かけ「紙を持ってきて、サラ!」と命令。男が太ももの鞘からサバイバルナイフを取り出すから、サラは慌てて止めた。
男は壁にかけてあった父の猟銃を奪い、サラの手を握って自宅を後にした。

バンに向かう途中、昼間の3人組みに遭遇。
「ミス・ベーコンの登場だ」「見ろよ、男を連れてやがる」「こっちに来いよ、俺のチョリソの方が美味しいぜ」
男はバンを運転し、3人組み目掛けて突撃。慌てた若者たちは咄嗟に回避。1人が腕の骨折を訴えた。

夜道を走る車。男は助手席のグローブボックスを開き、ピンキーを取り出すと、サラの太ももの上にそっと置いた。
収納には聖母マリアのイラストが入っていて、サラがじっと見ていると、視線が気になったのか、男は慌ててカバーを閉じた。
――よそ見が原因で正面を通過中だった雄牛に激突。車は大破した。

男は気絶したサラをお姫様抱っこ。意識を失ってさらに重くのしかかる女体を震える腕で支え、一歩いっぽ移動して隠れ家にしている廃倉庫に到着。
頭から血を流しているサラを仰向けに寝かせて、傷口を布で手当てする。

翌日の早朝。サラは目を覚ましたが男の姿は見当たらない。倉庫内を散策すると、手足を縛られ、天井のロープに繋がれて台に載せられたクラウとロサを発見。
鉄骨階段を上り、猿轡を外してやる。
泣きわめいて「早くしてっ」と命令するクラウを解放しよと、足かせの鎖を解きにかかるが。台座が外れて、まるでアスレチックの滑車滑りのようにスタート。少女の体は、大型冷蔵庫の塊肉のように宙ぶらりんに。

食料調達から戻った男の気配がして隠れるサラ。追いかけっこでマカのバラバラ死体に遭遇。あえなく男に捕まり、泣き叫んで暴れるサラは怪力で無理やりハグされた。
死にたくないっ、と訴えると「まさか」とハグは優しく変化。
暴行されたロサは、両手を天井から繋がれたまま床でぐったりしている。同級生の前に立たされ「一緒にやろう」とナイフを握らされるサラ。
殺してやりたい、と願っていた標的が目の前で無防備な姿を晒していた。
雄叫び一閃。
振りむいたサラが男にナイフを振りかざすが、手首を握られてガード。
悲しそうな目でじっと見つめられ、降り注ぐオープンブロー。サラは衝撃で回転しながら床に転がった。

壁にかけておいた猟銃に手をかける男。吊るされたクラウが顔面蹴りで抵抗する。立ち上がったサラが床のナイフを握って男に突撃。脇腹に突き刺した。
ストックで殴られた衝撃で暴発。クラウの右腕が吹き飛んでつんざく悲鳴。
脇腹を抑えながらよろよろ立ち上がった男にサラは飛びつき、頸動脈に噛みついた。大量の鮮血がほとばしり、血溜まりで足を滑らせた男が転倒。……だが、それ以上は抵抗しなかった。
意識が遠のいてゆく男に馬乗りのサラは正気を取り戻し、必死に止血しようと太い首を両手で抑えるが、男はすぐに動かなくなった。

サラは猟銃を手に取り、幼馴染に銃口を向ける。「ゆるして」と懇願する少女に向けて発砲。
弾丸は見事ロープを引きちぎり、クラウの体は地上に落ちた。
血塗れのサラは猟銃を捨て、重症の2人を残して廃工場を後にした。

徒歩でハイウェイに到着すると、恋人を捜しにバイクで出ていたペドロと遭遇。
後部座席に乗せてもらい、街まで送ってもらう。
彼の背中に身を預ける。肌を焦がすスペインの太陽に照らされながら、心地いい風を感じていた。


【映画を振り返って】🏍️🌄
珍しいスペイン映画。
監督は、わたしと同学年。
昔の写真のように色あせた映像。4:3の画面比率で、子供時代に連れて行ってくれるが、舞台はスマホが普及した現代。レトロと現代をミックスする自由な発想がよき。

髭の男がサラの代わりに苛めっ子を処してくれる。
地獄の守護天使だ。
「嫌なあいつに誰か罰を与えてくれないかなぁ」を具現化したストレートな作品。

主人公のサラは、顔はすっきりした美形で、美味しそうな肉をムニムニ揺らして走る。
思いのほか絶妙な体型。
ポスターよりずっと若いし、目もくりくり。
演じているラウラ・ガランは1986年生まれなので、童顔。
腹を斜めに切開したような跡があるのが気になるが、理由は分からなかった。
(へそピアスの跡かも)

📺演出。
衣装やインテリアの色合いはピンクと白を基調にして可愛い絵作り。
レトロな夏休み、ファンシー、肉、いじめ、出血、ギャグで独特な世界観を構築している。

すべての場面での全力演技に、必ず笑える仕掛けを入れた過剰サービス。山崎貴とスピルバーグを合わせたような個性だが。
ジャンルにコメディの表記がない……。

サラを虐めて追いつめてゆくのだが、プレイの方はやりすぎずに気遣いがある。
あくまでも、夜のおかずの範囲を越えてこない。

ママが軍隊式。
ガミガミうるさくて鬼軍曹のようだけど、娘の心情には無関心、という絶妙なニュアンスをついてくる。
一見、矛盾しているようだが、世の中にはざらにいるタイプ。
彼女の中ではいいママを演じている、つもりでいるが。自分は親として正しい、を信じた感情が先走っている。
(がんばるママ)
これを国内で上手く表現している人を見かけないので貴重な感覚が得られる。

サラも家では大人しいが、他人の前だと、いかに家族に不当な扱いを受けているのか、をアピールしてくる分人が立ち上ってきて、親子喧嘩も泥沼。
豪快さと繊細さが入り交じった絶妙な演出。
テレビ業界のベテランだけあり、表現力が卓越していた。

中盤が穏やか。
淡い恋心と夜の外出で、青春時代の振り返り。展開まで可愛らしく収まり、斬殺を期待するホラーファンの点数が下がるのも仕方ない。

🥗妄想性パーソナリティ障害。
否定されつづけて、周りの人間すべてが敵に思えてくる心の病気。
友人の罵倒と、母のダイエット警告で散々苛められた後に、お菓子をくれる髭の男に「好きなものを食べな」と許されたようで、涙腺崩壊。
まさかピギーで泣かされるとは思わなかった。

どちらが聖母か分からない。
劇中で唯一肥満を肯定してくれるのが、髭の男。
おそらく、彼自身も何かしらの精神疾患を抱えている。社会に居場所がなく、苛められているサラに自分を重ね合わせたのだろう。

🍉人垂らしでしたたか。
サラは、苛めを訴えて、話の本題をすり替えてくる。
男の同情を引く。
苛めグループを苦しめたあげく、意中の男性を手に入れる、など意外とあざとい。
女性が生き残るための知恵でもあるし、咎めるつもりはないが、可哀想ないい子、のような枠に収まる玉ではなかった。

監督は性的マイノリティではあるが、寄り添う側。肥満で苦しむサラのモデルではなかった模様。美形だし。
(ふ~ん)
ただ、他人の話なんて書けるものではないから、公の場では隠している、はあるかもしれない。
インタビューでも願望ばかり語って、肝心なことは秘密主義で鬱陶しかった。
(デビュー作なので、まだまだこれから)
冷静に考えると、プールでビキニ姿をいじられるとか、2人のいい男が夜這いに来て悪い遊びを覚えるとか、美女の青春でしかない。

日本ではあまり評判がよくないが、ヨーロッパのジャンル映画祭であるメリエス・ドールなど、数多くの賞を獲得している。
ロッテントマトの点数が🍅批評家91%で、🍿一般が60%。
一般の評価が中の上程度だったので、期待していなかったけど、いい映画だった。
町山さんが珍しくラジオでホラーを紹介して「辛い日常を破壊してくれる男の姿から、ゴジラを思い出した」と共感していた。
(やっぱり批評家は信頼できるな😤)

🥩ジャンルレス。
・終盤の盛り上がり不足。
・追いかけっこと、カクレンボ多すぎ。
・後味がすっきりしすぎてケレン味が足りない。

綺麗ごとと、本音の中間ぐらいの作風なので、スラッシュとして見ると中途半端。
処されたのが、最初に暴言を吐いたプールの監視員。キャライベがないウエイトレス。
廃工場に転がっている同級生が1人で、殺害現場は見せずにぼかしてある。
ただ、苛めの主犯格であるマカはしっかり葬られているので、目的は達成されている。

苛めに加担していたが、断れなかった人間は腕の1本で許してやる、と考えれば冷静。「皆殺し」の回避によって、独自性を生み出しているのは確かだ。
不完全燃焼は、ホラーの女性監督あるあるなので、男性とは求めているものが違うのかも。
髭の男が夜這いにくる妄想はそれなりなので、まあ、いいか。
(プロレスラーのような体だった……)
暗い青春時代にファンタジーを持ち込んだもの、として捉えるのが正着な気はした。

サラの銃口が幼馴染に向かわなかったから、日向の道を歩けている。監督はそれを伝えたかったのかもしれない。
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