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貞子DXのドントのレビュー・感想・評価

貞子DX(2022年製作の映画)
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 2022年。そういうことなんだよな。もはや「そういうもの」なんですよ、貞子とか貞子の物語は。この映画は賑やかな葬式ですよ。ホラーのアイコンとしての貞子の葬式です。死んでるけど。
 都心で謎の怪死事件が頻発。IQ200の天才女子・文華はテレビ番組に呼ばれ、霊能力者に「呪いのビデオに立ち向かってみたら?」と挑発され、ビデオを渡される。なんとなく観ずにいたその晩、興味を持った妹が再生すると、井戸の中、這い上がろうとする手、そして映し出される、いま、妹がいる自宅……。ビデオは、進化していた!
 なるほど、ビデオの呪いが変化していること、例の解毒法は通用しなくなったらしいこと、助かる者と助からない者が出てくること、ビデオテープを拡散している者がいるらしいこと……これらは何故か? という適度な謎に理屈と推理でもって迫っていくスタンス。原作要素も加えてありこのアプローチは令和にきて『リング』への先祖返りとも思えるかもしれない。
 が。
 本作は全然怖くない。ドタバタコメディになっている。それならそれでよい。しかしコメディとしても9割超スベっている。引き合いに出して悪いが「福田雄一による役者任せの悪ノリよりは若干マシ」くらいのがお出しされてくる。過剰なセリフ、天丼、無意味ジャンプスケア(正直これはちょっと好き)、やかましさ、聞き違い・頭悪いギャグ、肩透かし、白ワンピの中年男性、でんぐり返りdeath、こういうのが99分、不真面目にワタワタとお出しされ続ける。
 コメディ以外の部分も額に手を当てたくなる厳しさで、説明的な台詞とか、そんな簡単に解決した言うてえぇんかお前IQ200やろという展開、狭すぎるインターネット世界、完全に野に置いただけの井戸など、大変にこの、フゥー……、ごめんなさい、ちょっと疲れました。与えられた役柄を全力でやっている役者陣、特にランペ川村と霊能力者池内にはなんかこう、お疲れ様でした、と言いたくなるのであった。
 かそけき長所としては、うさんくささ満載の霊能力者氏のバックグラウンド、これはちょっと好ましく思った。私はこういうねじれた考えの者がウワーッとなるのが好きである。あと編集がチャカチャカしていて、長ったらしい場面で足踏みさせられイライラすることはない。ただチャカチャカしていて長い場面がなくても、面白くはない。困るのである。
 しかし終盤の展開に至って、私は冒頭に書いたような一種の悟りの境地に達した。もはや貞子とは恐ろしい呪いではない。幽霊としてのイメージであり(呪いがこのような形を取るのは示唆的だ。もう「服装」しかないのだ)、いちキャラクターであり、定期的に復活する「そういうもの」になってしまったのだ。イベントなのだ。にぎやかな葬式とはそういう意味である。葬儀屋や喪主が「笑って送りましょう!」とギャグを挟んでくる葬式である。そのギャグも笑えはしないんだけど。
 そんなわけでありがとう貞子。バカヤロウKADOKAWA。お疲れ様キャスト。どうしてこんなことにした監督と脚本。人類は「貞子」というホラーアイコンを消費しすぎた。あとにはマンネリと化した続編があるばかりであろう。ここが享楽的消費主義の行き着く井戸の底だ。さようなら貞子。また「続編」があれば、出涸らしとなった君と再会するかもしれない。その時は少しでも、怖くなってくれていると、僕は嬉しい。
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