YAJ

大いなる自由のYAJのネタバレレビュー・内容・結末

大いなる自由(2021年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

【穴】

「なんか、穴、開いてますね、不良品?」

 近所の映画カフェに置いてあったフライヤを手にしたうちの奥さんが、なにげなく指摘した制作ミス?!  
 Bunkamuraの知人からチラシを貰って来たカフェのTさんも、「あら、言っておきます」と。
 ところが、後日、作品を観てきたTさん、

「実は、アレ、意味があったんです・・・!」

 それを聞いて、やおら鑑賞した。そんなキッカケも悪くない。

 戦後のドイツの刑務所を舞台に、「1871年から1994年にかけて施行された男性同性愛を禁止する法律のもと、愛する自由を求め続けた男の20年以上にわたる闘いを描いたドラマ」(映画.com解説より抜粋)。
 主演のフランツ・ロゴフスキが、我が家で評価の別れるドイツ人男優で、彼の主演作品『希望の灯り』、『未来を乗り換えた男』と割りと観ているが、存在が気になるという嫁さんと、得体の知れないキャラが好きになれない私。

 いずれにせよ、昨今多いLGBTQテーマの作品は、そろそろ食傷気味ということを今年は度々書いてる。本作も上記の「穴」事件がなければ、パスしていたかもしれない。

「愛する自由」は誰にでも認められて然るべき権利ということは理解する。個人の自由が法律(=175条。誰もが知る条例として描かれる)で制限され嫌悪感を抱かせることの違和感も分かる。性指向(嗜好?)についても、多様性だとか、やれ寛容にとか、コトホドサヨウに声高に叫ばれる昨今、異を唱える程、私も馬鹿ではない。
 が、そろそろ「もう、いいんじゃね?」と思わんでもない。

 さて、鑑賞したBunkamuraル・シネマ渋谷宮下は、本家Bunkamuraが2027年度(時期未定)まで休館ということで、昨年末に閉館した渋谷TOEI跡にて、今年6月から営業再開している。
 Bunkamuraは、以前からも夫婦50割等の割引がなく、できれば敬遠したい箱。でも、たまに使ってみると、ロビーの雰囲気や、座席のゆったり感などはラグジュアリーな気分にさせてくれて悪くない。
 持ってくる作品も、仏映画を中心に、他にない特徴あるラインナップは、さすが。直近は、2019年と間が空いたが、『僕たちは希望という名の列車に乗った』、『あなたの名前を呼べたなら』と、どちらも印象深い作品だった。
 本作は、移転後、第1回配給作品なんだそうな(ANGELIKA Tさん情報)。若い世代にも来場してほしいと願ってのことらしいが、ちょっと、その狙いはハズしたかな(苦笑)

 でもまぁ、渋谷宮下にあるほうがアプローチが楽だし、またちょくちょく利用してみよう。皆さんも、是非!!
https://www.bunkamura.co.jp/cinema_miyashita/



(ネタバレ含む)



 さて、テーマはさておき、作品としては、見応えあり。
 彩度を落としたモノトーンに近い寒色の画面は、当時の西ドイツにおける同性愛者への風当たり、行き場のなさ、見い出せない『希望の灯り』をも、うまく表現していた。
 音楽も最低限。暗闇の独房シーンにだけ響く管楽器(だと思う)の音色が印象的。さらには、エンドロールを無音(あるいは薄くホワイトノイズ?)にしたあたりも、観る者を監獄の独房に置き去りにするかのようなニクイ演出だ。

 印象的なラストシーンは、更に巧みでイミシン。
 監獄より、現実の方が、よほど歪んだ閉塞感に満ち溢れていると、現代の社会情勢にも置き換えて、訴求してくるものがある。
 結局、主人公のハンスは『未来を乗り換えた男』とならず、現実に背を向けるのもナニヲカイワンヤ。1970年前後を描きながらも(175条は1994年の法撤廃前、1969年に21歳以上の男性同性愛は非犯罪化される)、今の時代に物申す骨太のメッセージだと受け止めた。
 が、然様なアンチテーゼを、同性愛を題材に語るのは、ちょっともう、お腹いっぱいかな。作品としては、重く、なかなかの力作でした。

 そうそう、「穴」ですが、掘った掘られたのお下品なオチじゃないですよ(笑) 
 独房に入れられている彼らは、互いに思いを伝え合うのに、手元にある聖書のページ上の単語に、針で穴をあけ、その単語を繋げて読むと文章になるという、暗号めいた手法を使う。どうやら、フライヤの穴でそれを表現したか(正解かどうか分かりませんが、恐らく)。
 フライヤ等の宣材全部に穴をあける追加作業の手間や、独房の暗がりで灯すマッチも会場にTake Freeで置いておくなど、なかなか新生Bunkamura、力(リキ)入ってますな!
YAJ

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