Gan

ザ・ホエールのGanのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
4.3
"拗らせ天才文化人"と巷では悪名高いダーレン・アロノフスキーの最新作。
"レスラー"に続いて、孤独な巨躯をじっくり観させられるのは2回目。

ほぼ完全無欠。舞台設定から登場人物、脚本から台詞回しまで、全てが洗練されつつも新しい。特殊メイクを感じさせない造形と、余りある演技力も流石。細やかな伏線が散りばめられた、ミニシアター風を装った怪物。

このバードマン的エンディングは大好物。
ひとつの部屋での会話劇が、後半からテンポアップしていき、最大速度で駆け抜け、そのまま突き抜けるように終劇。作り手なら誰もが憧れる痺れる手法。一筋縄では行かない複雑な人間関係の機微や感情も忘れず、きちんと織り込んでいるところが憎めない。"白鯨"という言葉の意味の多面性。
分かりやすい首尾照応型の枠組み、リズという特異な関係の友人、チャーリーの過去の捩れ、諦念と希望。これらの要素が、「重厚で作り込まれた物語を観た」という感覚に浸らせてくれる。

救い、赦しといった表向きのテーマを持ちながらも、裏テーマに徹底したチャーリーの強欲とエゴが描かれる。自慰シーンから始まり、終始止まらぬ食欲、終盤での「たった一つ正しいことをしたと証明させてくれ」というこの上ない自己中発言に終わっていき、追い討ちのように自らの今際、娘に朗読させるという自分勝手さ(妻の「貴方は自分のことしか考えていない」という罵倒が、真に的を得ている)。ここを感動の場面にもってくるところが、監督の辣腕が唸りつつも、その性格の悪さが滲み出ている点だと思う。
ここまで来れば、LGBT要素やら文学的"白鯨"の側面はあくまでも虚飾にすぎず、そこに感嘆する視聴者を小馬鹿にしているようにすら感じる(邪推であってくれ)。
何にせよ、腹が立つほどの天才である。
万人に勧められる訳が無い。
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