みーやん

ドント・ウォーリー・ダーリンのみーやんのレビュー・感想・評価

4.1
ネトフリの「近日配信予定の新作」の欄にこの作品のサムネを見つけたときにはウォッ!と声が出てしまいました。オリビアワイルドの監督第二作で、前作ブックスマートと違って彼女自身が出演するだけでなくフローレンスピューとハリースタイルズも出て、どうやら「完璧な世界で完璧な生活を送っていたと思ったら」なSFスリラーらしいと前情報で期待をパンパンに膨らませていたのですが、蓋をあけたら劇場公開時には自分の住んでいる北陸エリアではどこの劇場にもかからなかったんですよ。ワーナーよマジなにやってんだてめえ!って感じですが、こういう「地味でシリーズ物じゃないメジャー系洋画」って地方ではもともと公開されてもめっちゃ短期間(しかも1日1回上映)だったりしたものですが、ついに全く公開されなくなる日が来たか!しかも俺がめっちゃ楽しみにしてた作品で!と暗澹たる気持ちになったものでした。

さてそんな本作。いや〜やっぱり大画面で観たかったな〜ワーナーさんよ〜と悔しくなる面白さでした。そしてここんとこ「君たちはどう生きるか」「バービー」そしてこの作品(公開順でいうとこれがいちばん古いですけどね)と観て、どれも監督の思い切る力というか自分に見えているビジョンにむけていろいろ振り切ってしまう力みたいなのを目の当たりにした感じがしました。

主人公の暮らす世界は実は・・・というお話じたいは以前からありますよね。シャマラン監督作品なんかではお馴染みといっていいぐらいだし、マトリックスもそういう要素あるし。映画版ではあっさりどんな世界か開示してましたけど「私を離さないで」の原作小説もそのあたりがカズオイシグロならではの持って回った、行ったり来たりする語り口でじわじわ明らかになってくるあたりは大きな魅力でした。
いっぽうでじゃあそれがどんな世界だったのか、という部分ではまあけっこういろんなパターンが出きってしまっている感もあり。その斜め上を行こうとして失敗してる例もあるようですし。
この作品に関しては、そういう種明しの「種」としての世界観がいかにきっちり構築されていてすっきり説明されるかというところには重きを置いていない印象でした。そのへんひとつ冒頭で書いた「うわーよく思い切ったなあ」という部分ですね。なのでお話としてのどんでん返しからのきっちりした風呂敷畳みを期待される方には合わないかもしれません。なんか思わせぶりな描写ばっかりで結局尻切れとんぼだったなー、みたいな。

ただ今作でオリヴィアワイルドが現出したかったのってそこじゃないんだと思うんですよね。自分が現実だと思っているもののゆらぎというか、その外側とを隔てる皮膜の薄さというか、それを表現したい・感じさせたいっていうのがいちばんの狙いだったんじゃないかと思います。僕はそこはすごく成功していると思いました。あとこれの前に観たバービーとは監督自身が俳優でもあるっていうのが共通項なわけですが、どちらも俳優の演技のスクリーンへの焼き付け方がすごく上手というか、俳優を見てる解像度がすごく高いように思いました。そこは同じ目線に立って演技を交えた経験があるかないかって違うんだろうなーと。俳優が監督やって必ずしもうまくいくわけではないですけどね。でもイーストウッド〜ブラッドリークーパーみたいな流れもありますし、ベンアフレックも監督としてもけっこういいですしね。でもとくにバービーとこの作品はそれらのなかでもとりわけ、演出なのか構図なのか編集なのか役者が光る映画だなーと感じました。

あと思い切ったなーやり切ったなーっていう感服ポイントとしては美術と衣装ですよね。IMDBでもそのあたりの部門で賞とったりノミネートされたりっていうのが目立つようでした。「今年もっともがっかりした作品賞」みたいなのに選ばれてもいたようですが、これは先述したようにジャンル映画としてきっちり起承転結ないとダメみたいな基準で評価してしまったのかなって感じですね。話の内容は全然違いますが、ちょっとクラシックな要素をふんだんに盛り込んでルックにこだわりまくったSFということで誰もが認める名作「ガタカ」に通じるものもちょっと感じました。

ということでこれ観て以来なんか普段の生活の光景も気を抜くとちょっと変に見えるようなクラッとする感覚があります。なかなかこれはこれで楽しいです。サントラのいわゆるオールディーズというか甘く懐かしい感じの曲が、作品観たあとだとまた違った口当たりになりますね。いろいろ興味深い体験ができると思うのでぜひ各種サブスクでご鑑賞ください!めっちゃ良いですよ!
みーやん

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