akiakane

コール・ジェーン ー女性たちの秘密の電話ーのakiakaneのレビュー・感想・評価

3.7
性別や生まれた環境によって、人としての権利に違いが生じる異常さは今もなお続いているが、今ある権利は別に「偉い男の人たち」が配慮してくださるようになったわけではない。
産むか産まないか、自分の身体のこと、ましてや命に関わることでさえ他人に口出しされ、法的に禁止され、実質「母体:産む機械(※自民党の柳沢伯夫・元厚労大臣、忘れないぜ)」扱いされることに、自分で決められないことにおかしいと声を上げ、行動し続けてきた人たちの勇気と連帯と抵抗のおかげに他ならないと嚙みしめる作品だった。

《余談》
①ラストシーンへの収束が駆け足に感じられて残念だった。
結局「ジェーン」はどのように摘発されたのか、当時のマスメディアや世論の反応はどうだったのか、裁判の内容も結果だけではなく実際の判決文や「ジェーン」たちの言い分を描いてほしかった。
彼女たちを糾弾する警察や保守的な声に、望まぬ妊娠によって女性がどれだけ追い詰めれられるのか、その果てにどれだけの不幸を及ぼすのか、中絶しようにもどれだけのハードル(クリニック不足、説明やケアなど心理的に寄り添ってれる存在の少なさ、安全性、費用、世論、宗教、パートナーの不同意)が立ちはだかっているのか、女性がやむに已まれず行ったことだと法廷やメディアで示して世論の反応や変化を描いてほしかった。

医療行為の件数という数値結果以上に、女性の自己決定権や尊厳、命を軽んじる「法が間違っていたら、私たちが行動するしかない」と伝えるシーンを詳細に描かないと、「でも結局、無免許で手術をやったのはなあ…」「医療行為を結果オーライと言うのはなあ…」「死傷者はいなくても不妊になった人はいたのでは?」と、そこに至るまでの女性たちの経緯や社会情勢への批判より無免許の医療行為自体をいかがなものかと言う意見の入り込む隙を与えてしまうのでは。
(手塚治虫の『ブラックジャック』だって無免許医の物語だが、「でも無免許の医療行為はなあ」と読者に思わせないように工夫して描いているだろうに。)

②セルフ・パンプキンタルト・パーティーのシーンは、生生しい手術の練習をまるで主婦がキッチンでベイクセールのために張り切っているような軽快な場面になっていて温度差でツボってしまった。
でも、これからは中絶もこれくらいカジュアルな表現で良いのかもしれない。(勿論どんどんやれと言っているわけではない。)
過失があろうがなかろうが、誰もが認められるべき自分の身体の決定を、さも言うことが憚られる恥や罪にしてしまうことこそ、「ジェーン」たちが必要だった背景にあったのではないだろうか。
akiakane

akiakane