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小さき麦の花のこどものレビュー・感想・評価

小さき麦の花(2022年製作の映画)
4.5
「ツバメの巣だ。ツバメが戻ってきたら困るだろうな。」

観ている間に印象が二転三転する。
私は弱者が理不尽に虐げられた時にみせる「いじらしい健気さ」が苦手だ。冒頭に引用したセリフは、ヨウティエたちの家がブルドーザーによって破壊されたあとに彼が呟いたものだが、このセリフが象徴するように、無限の優しさを持っている人が、自らの不幸を不幸だと思わない、傍から見たら愚かにも思えるその心持ちにモヤモヤするのだ。
そんな我々の様子を「観る側の暴力性」を自覚させたいミヒャエル・ハネケなんかが見たらニヤニヤしそうだが、そんな不穏な空気を孕んだモヤモヤは、映画が展開していくうちにみるみるうちに鎮まってくる。
今度は観ているだけでこちらまでほっこりしてしまうような「弱者の幸福論」が、中国の極貧農民の生活を偽りなく描くと共に、強固な説得力を持って描かれる。
すると、さっきまで勝手にモヤモヤしてしていた自分に腹が立ってくるのだ。相手の幸福の尺度を自分のモノサシで測るなと。

ここで映画が終わっても、まぁまぁいい映画だと評価されていただろうが、やはりこの作品の本域はラストシークエンスにかけての「国家を利用しての」大立ち回りだろう。

ラストにかけて、中国当局の国策とは相反する形で物語が展開していくのだが、明らかに「検閲ありき」で逆算された演出が多々見受けられる。中盤までは実直に農民の生活をドキュメンタリー的に描写していた印象が強いが、終盤に突然含みのある描写が増えているのも、検閲を意識してのことだろう。
ただ、実際にどのような形で「修正」が入るのかは分からないし、それによって作品が台無しになってしまうリスクもある。そのリスクをかいくぐり、検閲後の取ってつけたようなセリフすらも当局への皮肉なカウンターとなって「逆プロパガンダ」とも云えるほどの強烈な印象を残した。それこそが本作が「奇跡」とまで呼ばれる所以ではないだろうか。

危機に瀕した人間に手を差し伸べない村民の姿が、理想を騙るだけで国民を救わない国の在り方と被ってみえる。
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