第七電機工房

ケイコ 目を澄ませての第七電機工房のネタバレレビュー・内容・結末

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

「夜明けのすべて」の三宅唱監督の作品で、主演の岸井ゆきのが日本アカデミー賞主演女優賞をとり、数々の映画賞で高く評価されている作品
夜明けすべてがとてもよかったので観ました。

この作品の主人公 ケイコ は、生まれつき耳が聞こえないため、セリフはほぼ言葉ではなく、手話で話すがあまり感情も表情もほとんど表に出さない。

我々観客は、彼女の行動やわずかな表情から心情などを読み解かなければならないし、彼女は心情や感情もあまり多く出さないので、周囲の人たちもいろんな戸惑いや葛藤がたくさんある。
このあたりの演技が評価されての日本アカデミー賞主演女優賞などの受賞なのだろう。

この映画は、「音の映画」で
ケイコは周りの音はきこえなくても、周囲はたくさんの音にあふれている。
ヘッドホンなどで聞くと、いろんなかすかな音がたくさんある。
また、劇伴がまったくなく、映像と音からすべてを感じる必要がある。

唯一お互い信頼と理解をしていると思われるジムの会長(三浦友和)は、ケイコのまっすぐな熱意に応えて、プロのライセンスをとるために尽力し、ジム以外の日々のトレーニングにも協力する。
ジムが閉鎖してしまうことが決まって、ケイコは自分を受け入れてくれる人がいる居場所を失ってしまうのではないかという大きな葛藤がある。

鏡の前でのシャドーボクシングシーンは二人の信頼の現れを表現したシーンだったと思う。
なので、ジムの移籍にも多大な葛藤があって、トレーナーたちには、怒られてしまうのも、ケイコの中にはちゃんと理由はあった。

最後の試合の後、ジムは閉鎖してしまったあとにケイコは、同僚の若い男の子にベッドメイキングを教える表情は、この映画で初めてケイコの笑顔だったように思える。
会長やトレーナーの人たちは、こうやって自分に教えてくれていたんだと感じたのではないかという風に僕は考えた。
また、ハンデキャップのある自分は、人に助けてもらったり、配慮されることが多いけども、自分も人に教えたりすることもできる人になれるという成長にもなっている。
コンビネーションのミットうちも、映画の最初に比べてすごいレベルが高くなっていったのも成長を表すシーン。

最後の試合は結果が出ず、試合の相手の選手も自分と同じように日常を必死に生きている。
その姿をみたケイコもまた、会長のキャップをかぶり、また走り出すところで映画は終わる。

この映画は、
登場する人たちが何かを成し遂げるような映画ではない。
今ある現状をなんとかしようとあがく映画だから、観終わったあとに何かのカタルシスみたいなものはない。

劇伴やセリフによる情報や情景の表現ではなく、最小限に人物の表情や
しぐさ、フィルムでとられた独特の味わいのある映像を「目を澄ませて」観る映画だと思う。
僕は、映画の表現って奥深いなーと感じたのと説明は多くないし、受け取り方も千差万別で、人それぞれの解釈にゆだねられる部分が多い映画だと思う。

万人が見て面白いから観てというような作品ではないと思うけど、いろいろな人の解釈や感想を聞いて(読んで)みたい映画ではあります。