がんがん

ケイコ 目を澄ませてのがんがんのネタバレレビュー・内容・結末

ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

岸井ゆきの推しということを差し引いても、本作とても素晴らしかったです。こんなにも静かな作品なのに、大きく観客の感情を揺さぶる。

冒頭のミット打ちのシーンからもういきなり揺さぶられました。ジムの中の環境音だけが聴こえる状況で、心地よいリズムでパン、パパンとミット打ちが続く。もうこれだけでミュージカル映画のような、エモーショナルな音が鳴り響いていて。後半の会長とケイコのシャドーのシーンもなんだかララランドのダンスのような、美しさと儚さと力強さが同居していて自然と涙が出てきました。


耳が聴こえないということを上辺だけなぞった物語ではなく、その本質を捉えてろう者の方々へ寄り添った作品だと思いました。CODAでも描かれていた生活音が大きくなる、ということが本作でも同じく自然に描かれていました。

コロナ禍のマスク→ろう者にとって口の動きを判断できなくなる状況を描く。

劇伴がほぼない→作品の感情を音楽でコントロールしていないのでろう者も本作を自然に楽しめるはず。字幕版の上映もあり。

カフェのシーンで手話に字幕が出ない→実際のろうの方が2人出ている。

状況や設定、ストーリーが自然に当たり前にろうの方々のそれを描いていて。コンビニで聴こえないことに気づいていない店員、道でぶつかったサラリーマン、バイト先の同僚など、日常の中で小さいけれどもたしかにある聴こえる者と聴こえない者の差。

それはとても可視化されづらいのだけれども、蛇口からチョロチョロと流れる水はいつか必ず溢れ出すように、ケイコの心の中で少しずつイライラが募る。新しいジムを見つけてくれた人たちの想いと、家から遠くなるということがどれだけケイコにとって見えづらい負担が増えることの想いの差が伝わらない。どうしても埋められないその差を丁寧に描いてるのが良かったです。


ムーンライトシャドウでも出てきた中原ナナ&佐藤緋美カップルがすごく自然で良かった。シャドーボクシングを教える→ダンスを教える、のシーンがとても美しくて、あたたかくて優しかったです。

ろう者と聴者がどちらか一方的に何かを教えるのではなく、お互いに学び合うという構図。これはもしかしたら監督が一番描きたかった本質なのかもしれない。


作中にたくさん出てきたので「ありがとう」と「お疲れさま」の手話を覚えることができました。昨年から引き続き「サウンド・オブ・メタル」「エターナルズ」「ドライブ・マイ・カー」「CODA」「オーディブル」と手話を自然に当たり前の言語として描かれている作品に触れることが増えてきました。


パンフレットが売り切れだったのでインタビューを探していたら監督と小笠原恵子さんの対談が出てきました。小笠原さんはボクシング以外にも柔道、柔術を経験されてきて、現在は手話を使って格闘技を教えているそうです。本作でもボクシングがテーマではありますが、その本質は小笠原さんの生き方、暮らし、日々のことを描いていたような。そんな監督の想いも読み取れました。

https://www.cinra.net/article/202211-keiko_dnmkmcl
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