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Bros(原題)のGreenTのレビュー・感想・評価

Bros(原題)(2022年製作の映画)
3.0
ゲイの男性が主人公の、王道ラブコメです。

ボビーはニューヨークでポッドキャストのホストや執筆によって生計を立てているゲイの男性。LGBTQのコミュニティと深く関わり、最近ではLGBTQ+歴史館の創設のキュレーターにもなっている。

主人公がLGBTQのセレモニーで "Best White Cis Gay Man" 賞をもらうシーンがあるのですが、「シスってなんだっけ?」って思ったら、「生まれた性別通りの性別の人」で、主人公は「白人の、男性に生まれた男性としてゲイ」のカテゴリーでの受賞ってことなのね。ややこしい。

ボビーは恋人を持ったことがなく、独身主義。セフレみたいな人がいて性的には活発なんだけど、パーマネントな関係になる気はないらしい。でもゲイ専門の出会い系サイトとかやってる。

友達とゲイバーに行ったとき、アーロンというムキムキのいい男に魅かれるのだが、アーロンも独身主義でセックスを楽しみたい人らしく、二人は魅かれあっているのに上手くいかないのですが・・・・。

この映画微妙だなあ~。DVDのパケ写に「"Trainwreck" と "Bridesmaids"のプロデューサー、"Forget Sarah Marshall"のディレクターによるゲイのロマンティック・コメディ」って書いてあって、私"Trainwreck"と"Forget Sarah Marshall"が好きなので期待して観たのですが・・・。

ネフリとかのゲイ映画って、ゲイ向けに作られているというか、ストレートの私が観てもアウェイ感が凄くて引いてしまうのですが、この映画はその溝を埋めてくれている部分と、やっぱりアウェイという微妙な感じがあります。

でもアパトー映画の真骨頂、映画をレフェレンスに使うセリフとかゲイじゃなくても笑えるんだけど、そこにゲイならではの意見を入れたりなんかはうまくて、例えばゲイ映画は「主演がストレートの男が演じていて、いつも悲劇で終わる、オスカー狙い」などと言わせたり「でも観るけど」的なところとかも、マイノリティとしては共感できたり。

主人公がLGBTQ+歴史館のキュレーターのリーダー的な存在で、コミティにはまさに、レズ、ゲイ、バイ、トランスなどのクィアが集まっているのですが、それぞれが自分の立場を主張してしょっちゅうケンカしている(バイの男性が、「バイはあんまり表に出ない!」って言うのとか確かに!って思った)。これって私がLGBTQコミュニティに持っているイメージなので納得するのと同時に、こういう場での議論って、「本音」でもあるけど「こういう世界を知らない人に教える」的な説教臭さもあったり、ビミョ~なところでした。

ゲイの男性って「女っぽい」って思われているけど、本当は全然違くて、ゲイでも、というかゲイだからこそ「男らしさ」にこだわるというか、もっと言うとストレートの男性とそこのところは変わらないらしい。アーロンのキャラが描く「マッチョのゲイ」は、男らしさにこだわって体を鍛えているし、ボビーみたいな草食系は、やっぱりいい体していない自分はモテない、とか思っている。

でやっぱマッチョのゲイは「頭悪そう」ってゲイの中でも思われているとか、ゲイ出会い系で「ペニスの写真を送って」とか言われるとボビーが「ストレートでそんな写真送ってなんて言わない」的な、ボビーはゲイだけど、ゲイ独特の文化にも辟易としているって感じが、私も日本人の文化に辟易としているところがあるので「なるほど」と思わされたり。

あ!一つ思ったのは、やっぱりゲイの人って性的に感覚違うのかなあって思った。アーロンが3Pにハマってたり、パーティとかクラブで逢った人とカジュアルにセックスしたり。あれってゲイ独特の文化として描写されがちだけど、本当にそうなのかな?まあ、ストレートでもそういう生き方している人もたくさんいるんだろうけど、ストレートの人はああいう性感覚って「特定の人だけ」って感じだけど、ゲイでは「大半がああで、そうじゃないモノガミーの人の方が珍しい」ってイメージがするのですが。

あと、ベッドシーンやキスシーンは、今まであまりに露骨にやるとストレートの人が引いてしまうようなのを思いっきりやってます。男女のラブコメではキスシーンがロマンチックじゃないですか?それを堂々とゲイでもやろうよ!って感じでした。

私は正直多少引きましたが、まあこれも慣れなんだろうなと思う。たくさん見ればどーでも良くなるというか。

この映画はメインのキャラはみんなLGBTQの役者さんなんだそうです。ストレートのキャラもみんなLGBTQ。LGBTQをカミングアウトしているっていうのは、アジア系の俳優とかマイノリティの俳優と同じ扱いなのか、普通の映画ではあまり配役されないらしく、普段演じられない役を演じられて役者さんたちは嬉しかったよう。

私の印象では、LGBTQってエンタメ界にはすっごく多くて、だって普通の社会よりそういう人が受け入れられる社会じゃないですか?だから才能ある人が集まっているとは思うんだけど、みんな裏方に押しやられている感じ。それはアジア系もそうで、アクション・コーディネーターとか本当にカッコいいことできるのはアジア系なんだけど、表に出るのは白人、みたいな。

でもこの映画のビミョーなぎこちなさはやっぱり役者がこなれてないせいなのかなあ、という気もする。まあ、それは映画出演の機会が少ないからこなれないのかもしれないので、「LGBTQの役者しか使わない」みたいな、ある意味 "Affirmative Action" を続けていけば、その中から本物が育ってくるってこともあるってことなのか。

しかし、この映画は監督のニック・ストーラーが「いつかゲイのラブコメを作ってみたい」と温めていた企画なんですが、監督はゲイじゃないんですよね。そんで、自分は部外者だから、ビリー・エッチナーっての?主役を演じた人に頼んで共同脚本してもらったらしい。まあ『カラー・パープル』を撮ったスピルバーグも黒人じゃないけど黒人の気持ちを良くあらわした映画だったから、関係ないと思うけど。

最後にLGBTQの歴史館のホログラム?のホストがベン・スティラー、エイミー・シューマーあとSNLのキャストなどが使われていて、一応「スターパワー」を使っているんですが、それでも興行成績は大コケだった模様。主演のビリー・エッチナーは「ストレートの人たちが観に来てくれない」ってツイッターで嘆いていたらしいけど、これってメジャー・スタジオ制作で大規模な劇場公開された初めてのゲイのラブコメらしいので、あと10年もしたら「先駆け」って言われるんですかね。

余談ですが、DVDについていた削除シーンが一番面白かったです。なんで削除しちゃったんだろ?あまりにもゲイ過ぎるから?
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