Jun55

TAR/ターのJun55のレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
4.4
自分で良いと思った映画を観た直後の状況に、精神が痺れるような感覚になることがある。必ずしも感涙するような感情の高まりではないのだが、これが自分のこの映画を観た直後の状態だった。

芸術の世界で頂点を極めた人物の真の姿を観てみたい、という気持ちは、誰しもが抱くだろう。
ケイト・ブランシェットの名演は、それを五感で表現しているところ。先ずは、その名演技に圧倒される。
「ターを演じることができるのは彼女において他にいない」と言わせること自体で、その評価が理解できる。
カリスマ性は勿論のこと、中性的なキャラクターがこの役にはどうしても必要になる。これが余りも女性的だと真実味が湧かない。

この映画は、脚本も含めて、きめ細かく、且つ複雑に、監督の意図、問題意識が組み込まれていると思うのだが、それが必ずしも明示的になっていない。そこに観客側の捉え方の幅がでてくる。
これが、この映画の面白いところであり、特に鑑賞後に監督、俳優のインタビューや、評論家のコメント、Youtuberのコメントをフォローしておきたいところ。
昨今話題になっている、ポスト#Me tooの側面があるし、Cancel cultureの側面もある。

芸術家における権力志向。
古今東西、歴史に名を遺すような天才芸術家が、必ずしも人格的に優れていたとは限らない。却って、逆ではないか。極度のエゴイストであり、ナルシストでもある。
Cancel cultureのテーマに入ってくるのだと思うのだが、このことについて、一石を投じている側面もあると思う。
詰まり、社会の枠組みの中で優等生であるところに、素晴らしい芸術は生まれるのか?という観点。
この問いの答えが、最後のハッとするようなエンディングに込められているのではないかと思った…

We don't care about Lydia Tar because she's an artist; we care about her because she's art.
(The New York Times)
Jun55

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