KenzOasis

TAR/ターのKenzOasisのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.5
ねっとりインテリハラスメンターの巨匠女性指揮者の静かな支配と、けたたましい没落。

類稀な才能は権力を集め、権力は傲慢を膨張させる。傲慢は憎悪を呼び、足元をすくう。その全てを“音”と演技で表現した映画。

じんわりとしたやり口でがっつりハラスメントする姿は、実にリアル。現実のハラスメントはたいてい、こういう形で脅して人を黙らせようとするものばかりだ。

比較的難解な印象が強いけれども、シンプルに考えれば、栄光からの没落という一言に尽きる。
ただこの映画がやたらすごいのは、堕ちていく様を音楽ではなく“音”とケイト・ブランシェットの演技に委ねているところ。

チェロの娘と仲睦まじく触れ合ってる姿をチラ見する、シャロン(演:ニーナ・ホス)の懐疑の念の出し具合とかもすごく良かった。

メトロノーム、女の叫び声、不協和音、繰り返されるドアチャイム、ノック、唸り声が静かに響き、「もう普通じゃいられないな」と思わせる不穏さはしっかりホラーじみてる。

饒舌に自らの感性と知性をばら撒く姿、若い学生を徹底的に理論で叩き潰す姿をとことん見せ尽くす長回しも「この内容で!?」という場面なのに目が離せない。驚くしかない。

音と時間をとことん掌握し、操っていたはずなのに、忍び寄る音に狂わされ、瞬く間に潰される。溢れる知性で言葉を操っていた者が、シンプルな「クソが!!!」に頼る者に堕ちていく。タワー・オブ・テラーみたいな展開なのに静か。

恐ろしい表現力に裏打ちされた映画。この作品がケイト・ブランシェットの新たな代表作になったのは言うまでもない。
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