しの

生きる LIVINGのしののレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
3.4
なるほどイギリスでリメイクすると「英国紳士になりたかった男」の話になるのか。40分ほど短くなった尺が象徴するように、良くも悪くも全体的にスマートにまとめている。主人公の性格からして落ち着いていて、これはこれで深みがあるが、改めて原作の志村喬によるパワーは異様だったなと思った。

原作は原作で今観ると流石に三幕目が長かったり、やや大袈裟で滑稽な演出もあったりはする。そもそも録音環境が良くなかったのもあり、それに比べると本作は色んな意味で観やすくなった。あの女性は葬式に来ないの? 息子の誤解は解けたの? みたいな所も解消されているし、どこか突き放した感じもなくなった。

なかでも一番スタンスの違いが表れているのはラストの流れだろう。そう簡単に人は変わらない……という描写は原作に引き続きあるものの、そこに対して本作は「継承」のニュアンスで対抗している。人はいつでも“生きる”ことができる。そしてその生き様はあの新人に、ひいては我々にも焼き付いたはずだと。この意味でラストカットは非常に美しく、ブランコにかなり象徴的な意味合いが付与されている。正直、この点では原作よりもストレートに感動できるかもしれない。

ただその一方で、主人公の人生が「いい話」に回収されている感もある。ここが好みの分かれどころではないか。要は美しすぎるのだ。原作はただただ残された我々が主人公の生に想いを馳せ、それでも彼は豊かに生きたのだと、願いにも似た実感を覚える作りになっていた。そこで志村喬の強烈な佇まいがジワジワと効いてくるというわけだ。そう考えるとこのリメイクは「物語」だが、原作は「生の爪痕」そのものを描いていた気がする。

その意味で、映画的に洗練されているのは本作でも、やはり自分は原作の強烈な鑑賞体験を忘れ難い。原作でいう「ハッピーバースデー」に対応するあの場面が弱いのも不満だった。しかし、ビル・ナイによる英国紳士版の解釈は確かに素晴らしかった。あれだけでも国境を越えたリメイクの意義はあったと思う。
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