スワヒリ亭こゆう

生きる LIVINGのスワヒリ亭こゆうのレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
4.0
黒澤明の不朽の名作『生きる』をビル・ナイ主演で脚本にカズオ・イシグロによってリメイクした本作。
評判もかなり良くて久しぶりに黒澤明監督の『生きる』を事前に観賞して予習バッチリで観ました。

脚本に関しては、黒澤明監督の『生きる』から大筋は変えてこなかったですね。むしろ日本と英国の共通項を見出したのが素晴らしく、英国映画になっているけど『生きる』のリメイクにもちゃんとなっている。
時間もオリジナルに比べて30分以上短いんですけど、気にならずに観れました。
どちらかと言えばオリジナルに余計な物を付け加えず、シンプルにしていった感じがします。

志村喬とビル・ナイを比較しても暗く沈んでしまった志村喬演じる渡邊に対してビル・ナイは落ち込んでいるものの何処か佇まいがカッコいいですよね。
死を目の前にした男を観た時にどちらが良いかは個人で違うのかなとも思います。
古い映画を好まない人は志村喬の演技はこってりしすぎてて、逆にオリジナルが好きな人はビル・ナイの演技はさっぱりしてる。
比べても仕方ないし好みは人それぞれです。

僕ですか?僕は志村喬さんでしょうね。
何故かと云うとオリジナルの方がヒューマンドラマで余命僅かな主人公が生きる意味を見いだす映画にも関わらず喜劇的な演出や脚本になってるからです。
で、やっぱりビル・ナイに笑わされる事は僕は一生無いけど、志村喬さんは面白いですからね。
それに喜劇的な演出を入れなかったのはカズオ・イシグロさんのセンスの問題でしょう。
オリジナルに対してリスペクトを凄く感じる映画だったので、オリジナルの喜劇的な演出が嫌いだとは思わないんですが、カズオ・イシグロさんにコメディセンスがあるかを考えた時に入れない方が無難だったんでしょう。
スベるぐらいならボケない事を選んだんでしょうね。

本作を観てやっぱり黒澤明監督の偉大さが分かります。
オリジナルに対するリスペクトを感じ、尚且つ良い映画に仕上げてるから、自然と黒澤明監督の株も上がる訳です。

オリジナルのお通夜のシーンを英国風にどうするか?と考えた時に帰りの汽車の中での会話劇にしたのも良かった。
英国の教会で、故人の事をあーだこーだ言うのはモラルに欠けて、逆に日本では、お通夜の席で故人の棺桶の前であーだこーだ言うのは何だか笑えるし、泣けてくる。
この感情の起伏の面白さが『生きる』という映画の醍醐味なんでしょう。

『生きる』黒澤明監督のオリジナル版も良かったけど、リメイクも良かった。
比べちゃったら面白味がなくなりますから深く考えずに共通項を見つけるぐらいの感じで観るのがオススメです。

それともう一言、ノーベル文学賞を獲っている人の脚本の本作に対して、リメイクだから当然ですが物凄く影響を受けてリスペクトを感じさせる黒澤明監督っていう人が日本にいた事を誇りに思います。