ドント

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのドントのレビュー・感想・評価

4.2
 2022年。どうかしている。どうかしてますよ。さびれたコインランドリーを夫と共に経営する中国からの移民・エブリンは大忙し。母国から父親が来るし、父には娘の恋人を紹介せねばならないし、客とはトラブル続き、おまけに確定申告が迫っていて一路、国税局へ。といきなり夫がキリッとなって「君は平行世界の安定を取り戻せる唯一の『エブリン』だ」とわけのわからないことを言い出したと思ったら開かれる無限可能性世界。
「ようこそ最先端のカオスへ」というのは配給会社ギャガさんがつけた宣伝文句であるが「最先端のカオス」、ただもうこれに尽きる。マルチバース=平行世界モノをよくぞここまでハチャメチャにおっ広げてカンフーアクションを添えて真面目に不真面目に映像化しやがったなと心底思った。
 要約すると、どこの世界でも似たようなトラブルになっていてそれが一ヶ所で均衡を破りかけてて全体がヤバいという話である。それがすごい科学や悪党の仕業ではなく、人生や家族や優しさの問題というミニマムさ。つまり「こんな人生もあったかもな……」「なかなかうまくいかないな……」くらいのちっぽけな問題だ。それがムチャクチャに拡張され、信じがたいほどの混沌を呼んで、画面からあふれ出てくる。
 たとえば「ちょっと変なことをすると他世界と接続できる」という設定は「世界のありようを揺り動かすことでズレる」みたいな感じで説得力を有している。なるほどな、と思う。が、その「ちょっと変なこと」がだいぶ変なことになっていき、我々は真面目な顔をしたサタデーナイトフィーバー初老女性、下半身露出男性、どう見てもそういう形のトロフィーの奪い合いなどと直面するハメになる。平行世界の方もだいぶ様子がおかしく我々は各種レディ・ガガやゴルフのキャディ、指ソーセージ人類や意思のある石、小指カンフーや大人のおもちゃアタックなどを突きつけられる。
 しかしこれもう、「見せられて」しまってはヨタ話と言う逃げ場がなく、とりとめのない可能性の洪水に途中から私の頭はオーバーヒートした。具体的にはポメラニアン鎖鎌あたりで頭から煙が上がり、超絶平行世界シーンでは本当に発狂するかと思った。今となってはなんか騙されたんじゃないかという気もしてきた。が、いっそのこと騙されようと思う。人間の可能性と「今、ここ」の物語をこれでもかと深掘りしたらマグマが吹き出した、そんなコントロールの効かない映像体験。「全てが、何処でも、いっぺんに」という広大なタイトルにふさわしい。逃げ場のない劇場でぜひ、ご覧ください。
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