デニロ

VORTEX ヴォルテックスのデニロのレビュー・感想・評価

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
3.5
予告篇は、ドキュメンタリータッチの演出で老いた男と女が死んでいくような話だったので、自分の趣味じゃないなと思っていたものでした。とはいえ2023年公開作品としては観ておかなければいけない作品ではないかと思うに至り、じっと時間が合う劇場におりて来るのを待っていたのです。でも、いざチケットを買う段で悩み、当日も足取りは重かった。

冒頭、老夫婦がアパートのお花に囲まれたテラスで人生は夢みたいな話をしながらお茶なんかしていて、そんな生活が徐々に壊れていくのかなと思っていたら、次のシーンでは妻の様子がおかしい。朝起きてトイレに行きコーヒーを淹れ出掛ける支度をする。夫の方は妻の意味不明の話に付き合いきれないという風情。ある日、妻がコーヒーを淹れるために湯を沸かすルーティンのはずが、ガス栓だけを捻りっぱなして放置していることに夫が気付き、息子を呼んで何とかしようよと相談するのです。

介助する人を頼もうとか施設に入れようとか話し合うのだけれど、夫は承知しない。とにかくこのアパートがすべてなのです。部屋中に積み重ねられている書物は夫の物であろうか。友人には、映画と夢の話を書いている、と話しているが、遅々として進んでいない。夫は映画評論家であるようだけど、もはや現役ではないのだろう。はて、映画評論で飯が食えるのかと思っていると、妻が精神科医であるという台詞が息子との会話で分かる。時折頭がすっきりしている時は、夫の心臓病の薬の心配をしている。ああ、生活を支えていたのは彼女なんだなと分かってくる。で、夫には20年来の人妻の愛人がいるのですが、彼女のつれない態度に不安が襲って来る。もうやめましょう、こんなこと。年月はあまりに早く移ろう。

息子というのが今や薬物の密売で生活の足しにしているけれど、実は自分も薬漬けの生活を送っている。嫁も薬漬けで厚生施設に入った居る(多分)ので、なんやかんやで生活はままならず息子はアパートに孫を連れてきて無心したりしている。

夢の中に人生をしまい込んでしまった妻は、自らの処方で薬を仕入れて謎の薬を調合して夫に飲ませようとしたり、夫が書き溜めていた映画と夢に関する原稿を見付けるや、あたかも掃除でもしているかのようにトイレに流してしまったりする。部屋にいる夫を指さし、あの男が一日中付きまとう、と息子に怯えた口調で訴えたりもする。

スプリットスクリーンでそんなふたりの日常を追っている。何十年か住み続けたアパートでのふたりの生活はかつてはこんなものではなかっただろう。妻は、夫の文筆作業を支え、心臓病の治療薬を処方し、そんな充実した世界を楽しんでいたのだろう。でも、夫はそんな妻の充実を蹂躙するかのように、外で愛人に愛を囁く。果たして夫婦とはひとつのフレームに収まるものなのだろうか。

Morc阿佐ヶ谷 人生は、夢の中の夢 にて
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