ヒノモト

VORTEX ヴォルテックスのヒノモトのネタバレレビュー・内容・結末

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

「カルネ」「アレックス」などのギャスパー・ノエ監督の最新作。
もはや代名詞でもある、暴力や過激な性描写を封印し、心臓病を患った夫と認知症が進行していく妻の老夫婦の心の断絶を左右二分割に分かれたスプリットスクリーンで、複眼的視点でその動向を追いかける物語。

スプリットスクリーンの必然性を存分に生かしたカメラワークと構図の的確さ、そして編集としての時間軸の可変や、観客がどちらのスクリーンを注視したらよいかという視線誘導まで、計算され尽くした完成度の高い作品だと思いました。

この後、核心部分に触れたいので、少しネタバレします。



老夫婦のいわゆる老老介護と迫り来る死という負の感情へ進んでいくのは、ギャスパー・ノエ監督らしくはあるのですが、即興芝居のシーンがほとんどのようで、行動の読みにくさから、その動向が不安感を煽り、その道程が残酷で、心理的な怖さに繋がる場面が多かったです。

最も良かったのは、スプリットスクリーンでずっと展開されてきた物語が、その意義が失われた時の喪失感というものを俳優の演技以上に、物理的に欠けたスクリーンという形で表現することで、存在としての死を観客側に知らしめる効果、その演出、編集のための終盤が、大変素晴らしかったです。

この物理的な喪失の驚き、老夫婦が暮らした住まいの記憶が失われていくラストも残酷で、息苦しい効果を生んでいました。
ドラマチックな演出は最小限でありながら、失うことの儚さを充分に伝えることの的確な表現になっていることが、この映画の完璧さにつながっていると思いました。

強いて苦言を挙げるなら、息子の存在、エピソードはもう少し用意しても良かったように感じました。
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