ビンさん

宮古島物語 ふたたヴィラのビンさんのレビュー・感想・評価

宮古島物語 ふたたヴィラ(2022年製作の映画)
4.0
道頓堀クリスタルエグゼで開催された特別上映会にて鑑賞。

2021ミラノ国際映画祭外国語映画最優秀作品賞受賞。
2022マドリード国際映画祭最優秀賞、主演女優賞(松原智恵子)受賞。

『ひとくず』の上西雄大監督の最新作。
先月開催された、宮古島映画祭で特別上映された作品であり、今回はエグゼクティブ・プロデューサー兼、本作に主演の柴山氏のご厚意にて、試写会を兼ねた特別上映会が開催された。

なお、本公開は来年になるとのこと。

バブルの崩壊により、多額の借金を抱えた男貴吉(柴山勝也)は、宮古島の海岸で自死しようとする。
その前に現れたのは彼の亡き父(赤井英和)だった。
父に叱責され、この海岸にホテルを建てるよう告げられた貴吉は、父のお告げを守り1軒のホテルを建てる。

数年後、貴吉亡き後、ホテルを守っていたのは彼の内縁の妻優美(徳竹未夏)。
彼女は貴吉の娘陽葵(古川藍)を宮古島に呼び、ホテルを継がせようとする。

陽葵の母ジェニファー(ルビー・モレノ)はフィリピン人であり、強制帰国の処分を受けていた。
そして自分から貴吉を奪った優美への恨みつらみを、娘の陽葵に語っていたのである。

美しい海と空。
僕は一度も宮古島はおろか沖縄へも行ったことはなく、さぞかしいいところなんだろうな、とは思う。
宮古島の自然に魅せられた柴山氏。
いわばそこに建設されたホテルのプロモーション映画、という側面もあるんだろうな、とは思っていた。
だから、宮古島の美しいところ、柴山氏がオーナーのホテルの美しいところが全編に流れるように登場するんだろうな、と。

確かにそういう側面もある。
が、想像していたのと違うぞ、というのは、上で書いたようにホテルのオーナーにはフィリピン人の本妻がいるのに、愛人にホテルを任せている。
そこに実の娘を呼び寄せるとは、いきなりヘヴィでドメスティックな設定で、美しい宮古島が修羅場になるじゃないか、ってなもので。
しかも、プロデューサーである柴山氏を物語上とはいえ、早々に故人にしてしまう設定って、ここがなんとも上西雄大監督のユニークな部分である。

映画は当然のことながら、相容れぬまま平行線の状態が進む優美と陽葵との物語を軸に、そのホテルにやってくる人々のエピソードを綴っていくという形式だ。

島で暮らす認知症の女性寿子(松原智恵子)には、島を出ていった息子津吉(上西雄大)がいた。
彼は東京でヤクザ紛いの企業で働いていたが、社長との金銭的トラブルで社長に瀕死の重症を負わせた挙げ句、部屋に引きこもっていた社長の娘リカを連れて宮古島へ帰るが、母寿子はもはや彼が息子とは認識できずにいた。
さらに津吉を追って東京からヤバそうな連中(波岡一喜)たちがやってくる。

また、夫(津田寛治)を新型コロナで亡くした妻は、娘を伴って宮古島へ。
そこにあるホテルには不思議な力があって、亡き人と再会出来るという噂を聞き、島へやってきたのだ。

また、15年前に娘が行方不明になって、その消息を辿って島にやってきた夫婦。
似た特徴を持つ女性を、宮古島で見かけたという噂を聞いてきたのだ。

というように、宮古島を舞台にいくつかのエピソードが語られ、それらが巧みに一つに収束していく。
それは、貴吉が建てたホテルが持つ、不思議な力が作用しているのだが、先にも書いたように、美しい風景をただ羅列するのではなく、ヴァイオレンスやドメスティックな問題も盛り込みつつ、時にコミカルな要素も含んでの、最後には人のポジティブな部分を引き出す語り口は、本作も上西ワールドここにあり、と思わせる内容であった。

沖縄地方の有名な伝承にニライカナイがある。
海の彼方や海底にある理想郷というものだが、本作に登場する「ふたたヴィラ」と俗に呼ばれるようになるホテルは、そのニライカナイへの玄関のような存在なのだろう。
海神の使いである海亀も登場するので、そういった要素は濃厚である。
ただ、とどのつまりは人間の持つ温かみが引き起こす奇蹟であり、それ故のあの展開なのであろう。

それと、早々に亡くなるという設定なのに、柴山氏は海外の映画祭にて本作で主演男優賞を獲得されている。
その答えは本作を観れば、なるほど〜と思われるはずだ(笑)
そこも上西監督の演出の妙だな、と実感した。

多彩な出演者も魅力的だが、宮古島のスナックのママ役を演じるのが高樹澪さん。
実は本作を観る前日に、自宅で『ウルトラQザ・ムービー星の伝説』(90)を観ていたこともあって、個人的に嬉しかった。
因みにこの作品で高樹澪さんは、魅力満載なヒロインを演じている。

また、久しぶりにその姿を拝見したルビー・モレノさん。
彼女のブレイク前夜、林海象プロデュース、天願大介監督の『アジアン・ビート(日本編)アイ・ラブ・ニッポン』(91)の中野武蔵野ホールでの初日舞台挨拶にて、ご本人にお会いできたのも懐かしい思い出である。

早く一般公開されて、多くの方の目に触れられることを望む。
ビンさん

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