なつふじ

坂の上の赤い屋根のなつふじのレビュー・感想・評価

坂の上の赤い屋根(2024年製作のドラマ)
4.3
原作:真梨幸子、制作・放送:WOWOWの全5話連続ドラマ。

イッキ見しました。完全にダークホースでした。ぶっちぎり、今期No.1。
ラスト怖すぎて、イヤミスってレベルじゃない。完全にホラーである。

これはネタバレなしでは感想書けないので……以下、若干のネタバレ。

原作が『藪の中』的なアプローチとなっているのに対して、ドラマ版は逆に、全ては真犯人の掌の上だったというエンドになっている。
あるキャラは原作と違って心を完全に間接操作されて自分を別の人間だと思い込んでしまっているし、原作では生きていた人物も殺されている始末。
この改変はかなり挑戦的だと思うのだけど、連ドラとしてはこちらの方が効果的だったと思うし、なにより脚本から音楽、映像、各キャストの演技まで非常にクオリティが高く、さすがWOWOWという感じだっま。

蓮佛美沙子は完全にあっち側に行っちゃってるし、橋本良亮は演技的な演出で、サイコパスではなくただホストとしての才能があっただけの男だとわからせてくるし、桐谷健太のラストの瞳は、真のサイコパスそのもの。
グロすぎてテレビドラマでは絶対に無理だが、このような、説明に頼らない、演技に託した演出もまた、地上波では無理だろう。

原作では、「文京区両親強盗殺人事件」を下敷きに事件を構成していると思うが、ドラマ版は、明らかに「北九州連続監禁殺人事件」を連想させる演出になっている。

サイコパスのイケメン真犯人と、それにマインドコントロールされ、肉親を殺害・解体処理させられた可哀想な女子高生という構図は、(知っている者は)誰でも上記の事件を思い出すだろう。
あまりに凄惨なあの事件は、ミステリの種として簡単に消費することも許されないだろうと初めは思っていたのだが……最後まで見て、この先入観こそが視聴者に仕掛けられた最大の心理的トリックであり、そして、ラストで上記事件と同じ構図がホラー的に再現されることで、再び現実の事件をリフレインさせ、恐怖と警鐘を鳴らさせる……という構造は、お見事という他なかった。

内容が内容なだけに好みは別れるとは思うが……ドラマとしてのクオリティは一級品だし、個人的には(前期と比べて小粒な印象を受けた今期のドラマ・アニメの中でもっとも)頭を揺さぶられた怪作だった。
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