Blue

あにきのBlueのレビュー・感想・評価

あにき(1977年製作のドラマ)
5.0
多分、倉本聰のドラマは初めて見ましたが、いやはやエグい。恋愛ドラマ史上、こんなに不幸な主人公/高倉健は初めて見た気がする。

私の祖母/ばあちゃんははぶっ飛んだ人でしたが、高倉健が大好きでこのドラマの事をよく話していました。
この前、妹と墓参りに行って夕食を共にしていた際に、U-NEXTで見れてこのドラマがとっても面白かったと言っていたので見ましたが、これは本当に面白かった。

倉本聰の有名なドラマといえば北の国から、ですが、今まで見た事なかったというか、中学3年くらいに一緒に祖母と見始めた途端に隣の隣の家が火事で全焼する騒ぎになり、酔っ払っていたばあちゃんは北の国からでも家が燃えるんだけど、まさかこんな事あるのねー、みたいな事を言っていてそんなばあちゃんを無理矢理引っ張って避難した事があって、それからなんとなく北の国からも見逃していました。
なんつーか北海道出身だから余計に見る気になれなかったというのもあるのですが。

しかし倉本聰の脚本力の素晴らしさといったら。
おそらく彼の最高峰の作品の一つだと思うのだけど、職人気質の強いとび職は伝統と風情を重んじながらも、実はビルやアパートなど、その風情と人情そのものを打ち消す都市の発展をうながす存在である、というところに高倉健と田中邦衛の名コンビをもってくる点が非常ににくい。
任侠映画/掟を重んじる事を1とするその第一人者的存在であった高倉健は、やがてテレビの台頭と共にその掟を重んじるようなストーリーは煙たがれ、消えてゆく存在としてこのドラマでは立たされている。

映画界の発展に貢献してきたのに、そして焼け野原からとび職として建物を建てて日本の発展のために貢献してきたのに、消費するだけ消費させられ、新たなアパートの住人である秋吉久美子からどんな仕打ちを受ける事になるのか。

そして倍賞千恵子のむかえる結末といったら。嘘だろ?と頭を抱えました。

私のばーちゃんは映画、黄色いハンカチと八甲田山そしてこのドラマの話をよくしていたのですが、おそらく気づいていたのだろうと思います。
このドラマが放映された年は、山田洋次の黄色いハンカチと黒澤明のタッグを組んでいた橋本忍の八甲田山も同じ年に公開されています。

山田洋次の黄色いハンカチでは高倉健は刑務所から出所する役なのですが、これは見ようによっては東映から抜け出せずにいた高倉健がようやく出所した事を祝っているようにも見えてくるし、八甲田山もまた、軍隊/組織という枠組みの中で、見えているのに見えない光景と、吹雪で真っ白で何も見えない事と重ねて死んでゆく人々を描きつつ、高倉健の役はどんな役かといえば、その白い地獄から帰還する役なので、これもまた東映という、かつての地獄から脱出したともとれる。

そして倉本聰は日本のために発展させてきて、新たな扉/テレビの世界に飛び込んできたのにいつの間にか置き去りにされた存在として立たせている。

三者三様というか、日本映画黄金期を支えた重要な存在である橋本忍、新たな映画人としての山田洋次、そしてテレビ界の申し子としての倉本聰と、実に描き方が興味深いし、この仕事のこなした高倉健のマネージメント力と俳優としても実に凄いと思いました。

そして高倉健、倍賞千恵子、大原麗子、秋吉久美子に田中邦衛と、他にもとにかく映るだけで非常に記憶に残るこの時代特有の俳優陣の画力/画ヂカラ。

ため息が出る。

高倉健は特に待ちの演技といえばいいか、演技そのものが上手いのか下手なのか、なんて言われたりしていたけど、網走番外地での田中邦衛のような俳優と向きあうとその個性を引き立たせるために高倉健がいる事がわかるし、結局日本映画が高倉健におんぶしてもらって同じような映画ばかり量産した事が問題なのだろうとこのドラマを見て感じました。

とにかくこのドラマの高倉健を見てもらいたい。そして倉本聰の残酷さよ。
秋吉久美子におでこにキスされたら、誰だって勘違いしますよ、そりゃ。

そして俺のばあちゃんは凄かったw。見る目があったなと思いつつ、ちょっと思い出に浸りました。
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