ブタブタ

太陽の牙ダグラムのブタブタのレビュー・感想・評価

太陽の牙ダグラム(1981年製作のアニメ)
4.5
ポスト・ガンダム以降のリアルロボット路線アニメの中でガンダムの直の後継的作品(つまり二匹目のドジョウ)かと思われたが明らかに違う異色の作品。
リアルタイムで見てた筈だけどハッキリ言って当時は内容をほぼ理解出来てない。
小学生のお子ちゃまには早過ぎた。
ロボットは完全なる兵器でしかなく、描かれるのは大国の植民地支配からの独立戦争と其れに関わる複雑な政治的闘争と次々と変わる権力のバランスに翻弄される主人公達。

地球の植民星である惑星デロイアにおける独立戦争。
最新鋭コンバットアーマー《ダグラム》を擁する解放軍ゲリラ「太陽の牙」の各地を転戦するロードムービーを主軸に、その背景には地球側デロイア側双方の政治的な思惑と複雑な権力構造による互いの相反する思想や目的、理想か現実か、国家間から個人に至るまでそれぞれの立場からの主義主張がぶつかり合うポリティカル・サスペンスであり『戦争のはらわた』の様な善悪が混沌とした世界で主人公そのものに見る者全ての正義感や倫理観が委託される異様な戦争映画(ダグラムというスーパーロボットによる殆ど一方的な虐殺が「ロボットアニメだから」で許される)でもある。

本作は言わばロボットアニメ版『チリの闘い』『アルジェの戦い』である。
ダグラムに乗る主人公クリン・カシムが戦ってるのは飽くまでも地球連邦軍の職業軍人及び兵士達である。
本作にはシャアの様なキャラの立った敵キャラはいない。
そもそもクリン・カシムは主人公であるにも関わらずニュータイプやPSなど特殊能力は一切ない。

本作の真の主人公と言えるのは寧ろデロイア独立運動指導者の歴史学者サマリン博士であり、敵役・ラスボスは連邦政府のデロイア駐在弁務官ラコックである。
地球側との妥協点を模索し骨抜きの停戦・独立案を受入ようとする解放軍リーダーに「そうやって真の革命がどれだけ潰されていったかは歴史が証明している」と飽くまで安易な平和交渉は大国にとって都合のいい和平であると断じるサマリン博士はキング牧師の様な民族指導者、自由主義・理想主義者であると同時にマルコムXの様に武装闘争も辞さないタイプの武闘派思想家でもある。

後半になって来るとロボットバトル・アクションよりも前記のサマリン博士らオッサン達が面付き合わせての喧々諤々の会議や論争シーンの比重が多くなってくるがコレが滅法面白いのである。

地球とデロイアを結ぶ宇宙港《北極ポート》を巡る攻防がクライマックスとなる。
解放軍は戦いの末《北極ポート》を遂に占拠、遂に革命と独立はなったかと思われたがそうは上手くいかない。
ここで地球とのデロイア独立の為の交渉が行われるも、内部の裏切り者による解放軍の分断や一方的な武装解除命令、実質的地球側最高責任者であるラコックによる裏工作によりサハリン博士の身柄拘束など戦いは勝利したにも関わらず兵士達の知らない場所で地球側有利で勝手に話しは進められており「革命による勝利と独立」が絵に描いた餅の様な単なるお題目、無意味且つまるで「巨大ロボットで戦って自由や平和が実現出来るなんてアニメの中だけです」と無常な現実を突き付けられる様である。

まあアニメなんで最終的には解放軍勝利デロイア独立で終わるんですけど(笑)其れを齎した物は主人公ではなく意外な人物による一発の銃弾だった。
このデロイア戦争も一発の銃弾によるクーデターから始まり一発の銃弾による「暗殺」による終わる見事な物語の結末(こういうのブックエンド方式と言うらしい)
一介の補佐官からその政治的手腕と手段を選ばぬやり方と狡猾さで地球側デロイア最高権力者にまで登り詰めた男・ラコックは本当にいいキャラクター。
このラコックの最後が「マスコミの前」で「散々利用した相手」に「後から撃たれる」という先日のあの人にほぼソックリという(いやあの人のがソックリなのか)悪役として見事アッパレというしかない死に様。
全75話もある為見るのは大変ですが是非とも見て欲しいアニメ。
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