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ぼっち・ざ・ろっく!のドントのレビュー・感想・評価

ぼっち・ざ・ろっく!(2022年製作のアニメ)
3.8
 2022年。よいものを見せてもらった。ひとりぼっちでギターの腕を磨き、動画サイトに演奏を上げて褒められを得てフヒヒ……となっていた高校生・後藤ひとり。だが学校ではオドオドのコミュ障で限りなくひとりぼっち。そんな彼女の人生がふとした偶然で動き出す。
 彼女がコミュ障なのは他人との「ちょうどよい」距離感がわからないためであり、異常な自己肯定感の低さとそれと真逆なロックスター妄想はつまりどちらも他者の不在で、また他者から照射される自分がないからだろう。そんな彼女が唯一誇れるギターでピンチヒッターを頼まれ、多少、いやだいぶ、いや相当にギクシャクしながら、音楽周辺を介して人と関係していくことはつまり、自己を確立していく旅路でもある。亀の歩みであろうともそれは間違いなく旅路であることだろう。
 後日どこかで書くかもしれないが本作、たとえば「動画の中の自分」(1話)から「鏡に映った自分」(12話)への変化や、教わるから教えるへの展開など、そういう「歩み」を相当にしっかりと描いていてすごい。当然のことながら演奏シーンも優れていて、しかも笑いやアニメの遊び(パロディは多すぎるか)(それにしても千葉繁さんは懐が深いよ)を詰め込んで、友達を作れとか孤独はダメみたいな説教臭さを上手く回避している。
「周囲の人が甘くて優しすぎる」「でも得意なものがあるじゃあないか」などの文句が私の心の暗がりがふつふつと呟いたものの、完璧に仕上がって大勝利!とはいかずに、痛々しく、ケガをしながらも、そして人生は続く、という締め方をしていくあたりでウウムと唸って暗がりは黙り込んでしまった。人生は最高の瞬間では終わらない。もしかしたら未来は暗いかもしれないが、あくまでも日常は続いていくだろう。人と人は触れあうだろう。その中で人は形作られるだろう。そのような確固たる思いを、リアルな背景や音楽の響きに重ねて語ってくる。
 一方で路上ライブのシーンと文化祭での機転のシーン、ここでのキャラの説明解説セリフは要らなかったと思う。いや要らなかった(断定)。心の交流やなんか超すごいことが行われているのは観ればわかるはずだ。よいシーンだけに、視聴者を信頼していただきたかった。そのようにどうしても書きたい不満は残ったけれど、これは、きらら系アニメとかバンドアニメとかに収まらない、青春と人生と人間について優しく語る、いわば『ロッキー』(1976年の映画)のような作品だと思うのである。
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