愛さんの映画レビュー・感想・評価

愛

映画(41)
ドラマ(0)
アニメ(0)

システム・クラッシャー/システム・クラッシャー 家に帰りたい(2019年製作の映画)

4.7

高い知能と身体能力を身につけた獣のように、情動のまま、耳鳴りのように駆け抜ける不条理で強烈なピンク。
追いかけてくれるならば、自分を見てくれるならば、どこまでも逃亡し焚き付けるように吠え、翻弄させる。
>>続きを読む

コロンバス(2017年製作の映画)

4.0

「私は一体何をやっているんだろう」という焦燥と向き合いきれず、時間の有限性から目を背ける日常を、窓枠に切り取られた緑が煽る。電車を何本も見送り、ホームの椅子にぼんやりと座る学生時代を追懐する。

そっ
>>続きを読む

サマーフィーリング(2016年製作の映画)

4.5

部屋中に散りばめられたアートピースが光るベルリン、喪失の夏。小さな命がキラキラと弾けるパリ、停滞の夏。喧噪の中アンティークが煌めくニューヨーク、再生の夏。

足掻く気力も失った寝付けぬ長夜は続くけれど
>>続きを読む

エンディングノート(2011年製作の映画)

4.0

健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも。愛し、敬い、慰め、助け、命ある限り真心を尽くす。
恥ずかしながらつい最近まで、この意味がわからなかったし、信じ
>>続きを読む

WANDA/ワンダ(1970年製作の映画)

3.6

唐紅を無意識的に等閑し、褪せた白群を召連れ徘徊するワンダ。カーラーを巻いたまま出廷すること、行き摺りの男に軽口を叩きながら食事をすること、彼女の行動に特段意味はない。執着の無さは諦めの果て。
不可逆な
>>続きを読む

シェイプ・オブ・ウォーター(2017年製作の映画)

-

その対象が人であれ物であれ何かに依存するということの不確かさや不安定さは、次第に心の所在も生産性も失わせる。宙ぶらりんになった自分を俯瞰し、鎖で繋がれたままただ浮遊する。

雁字搦めは己で解せると気づ
>>続きを読む

ベスト・フレンズ・ウェディング(1997年製作の映画)

4.0

アレサフランクリンの"I Say a Little Prayer"の合唱シーンが好きすぎてもう何度観たかわからない。目覚ましのアラーム音にしている程。

生活が一変したり心がぐちゃぐちゃになったりする
>>続きを読む

イルマーレ(2006年製作の映画)

3.6

2020年夏、バイクの一人旅に出かけたきり帰ってこなかったやつがいる。「気をつけてね」と送り出したものの、大人だし当たり前に予定通り帰ってくると思っていたから「帰りを待っていた」なんて強い意識はなかっ>>続きを読む

エターナル・サンシャイン(2004年製作の映画)

4.7

こんな風に記憶を消せたらと思う相手は、好きだけど離れなければいけなかった相手のこと。やり場のない好きは彷徨い、自分を消耗してしまうだけ。こんなことならいっそ消してしまいたい。
"友達以上恋人未満"とい
>>続きを読む

ムーンライト(2016年製作の映画)

3.6

黒い肌に集まる月光の神秘は、夜の海に現れる月の道。闇夜で研ぎ澄まされているはずの聴覚は波音に支配され、嗅覚は潮風に奪われる。
幼少期のトラウマ、好意への不信感、孤独への諦観。生活に溢れないようそれぞれ
>>続きを読む

ダミー男子(2021年製作の映画)

-

監督と直接お話する機会なんて今まで無かったし、普段触れることがない作品なので興味本位で。@dummydanshi_movie

あえて予告編や前情報など無く鑑賞したのだけど「ダミー男子」そういう呼称の
>>続きを読む

スモーク(1995年製作の映画)

4.0

クリスマス映画として挙げられることは少ないかもしれないけれど、本のページが捲れないよう片手で抑えながら丁寧にタバコに火を灯す所作のような、そんなクリスマスの物語。

匂いの霊感がある私は、生霊を匂いで
>>続きを読む

ソフィーの選択(1982年製作の映画)

4.7

ソフィーの命の選択と娘の悲痛な叫び声、恐怖で震え怯えた表情が脳裏に焼き付き頭が割れそうになる。心が、倫理観が、音を立てて崩れてゆく。

シューマンやベートーヴェンなどストーリーに沿ったクラシックの名曲
>>続きを読む

栗の森のものがたり(2019年製作の映画)

4.1

冬の始まりを知らせる天使の調べを肺いっぱいに吸い込み、吐いた黄金の溜息は優しく川の水面を撫でる。
この寓話の中で、私は何役を買って出ようか。儚げな少女となって菩提樹の花弁の押し花で切手を作り、棺桶職人
>>続きを読む

メッセージ(2016年製作の映画)

4.8

洗練されたリビングダイニングの開放的な窓はヘプタポッドとの出会いを彷彿させ、レクイエムのような荘厳で美しいサウンドトラックはアボットとハンナへ捧げられているかのよう。
彼らが表す円形の文字、娘の名前、
>>続きを読む

ゴーン・ガール(2014年製作の映画)

3.9

制御不能なアンビバレンスは、希薄なコミュニケーションの元では支配欲へと化ける。

"I loved you and then all we did was resent each other, try
>>続きを読む

あなた、その川を渡らないで(2014年製作の映画)

4.7

この映画があるならば、私が並べる言葉は意味を成さず他の誰かが語る持論もきっと役に立たないです。

ペイ・フォワード 可能の王国(2000年製作の映画)

3.9

善意は時にすれ違う。エゴだったり押し付けがましかったり、持て余して行き場がなく溢れたり。いずれにしても条件付きの"pay it forword (pay backなことが多いのかしら)"の手応えの無さ>>続きを読む

Swallow/スワロウ(2019年製作の映画)

4.1

冒頭から強烈に提示され全編を通しわざとらしく映される赤は本能、欲望、自我を。アールデコが散りばめられたコンテンポラリーで緊張感のあるインテリアは、張り詰めた空気が流れる夫婦関係を。「色褪せたヴィヴィッ>>続きを読む

言の葉の庭(2013年製作の映画)

4.3

翠雨、酒涙雨、天泣、秋霖……季節と面持ちにより繊細に表現し使い分けてきた雨にまつわる美しい日本語。これらは現代に詠い紡がれ、私たちはまた同じはずの空を見上げ反芻する。どの雨にも各々の想いを馳せる匂いや>>続きを読む

アメリ(2001年製作の映画)

4.5

焦燥など知らず、自分以外の世界と調和が取れないことを深刻に捉えないアメリをみていると安堵するのは、自分が同じ星の人間だからだろう。

人の心の機微がシナリオを書けるほどわかってしまうところも、誰も傷つ
>>続きを読む

ロスト・イン・トランスレーション(2003年製作の映画)

4.1

同じ日本人でさえ"東京"の捉え方や印象は大きく異なり、そしてこの作品が描く"Tokyo"に嫌悪を抱く方も少なからずいらっしゃるだろうということを念頭に置きつつ。

ソフィアコッポラが作品全体にそっと被
>>続きを読む

窮鼠はチーズの夢を見る(2020年製作の映画)

3.7

レビューとは違うんだけど、なんか昔のことを思い出しちゃった。一生夜露で湿っているんじゃないかみたいな世界。すべての輪郭がぼんやりと定まらず歪んだ視界。
執着は自信の無さ故。わかってほしいはずなのに距離
>>続きを読む

私、オルガ・ヘプナロヴァー(2016年製作の映画)

4.4

なんだろう。この獣と人工知能の合いの子みたいな違和感は。
彼女の破滅的な言動は憎悪や怒りという感情で表現できるものではなく、反作用に近いものを感じる。病んでいるとか壊れているとか、言語化できる状態でも
>>続きを読む

愛なのに(2021年製作の映画)

3.5

結婚を考える関係性にある相手との身体の相性問題、性欲の強弱問題は、いつだって根深くタチが悪い。

結婚式目前に新たな快楽を知り未知の可能性に艶めく新婦。不倫中に「結婚は自分たちのためじゃない、互いの両
>>続きを読む

恋する惑星(1994年製作の映画)

3.6

登場人物それぞれのブルースが玉響に煌めく様子は、どこまでも愛おしい。
泡沫夢幻、鏡花水月。返還前の香港の多国籍感と、まるで微睡みに沈んゆくようなWKWの世界。このノスタルジーにいつまでも寄り掛かってい
>>続きを読む

エドワード・ヤンの恋愛時代 4K レストア版(1994年製作の映画)

3.6

目まぐるしく経済成長が加速する90年代の台北を舞台に、愛憎を爆発させては反省を繰り返す、大人になりきれない若者たち。

混沌としたコミュニケーションの中で、自分の輪郭を確かめるためのボディランゲージ、
>>続きを読む

マイ・ブルーベリー・ナイツ(2007年製作の映画)

4.5

色気とは、生活を感じさせない神秘と想像を掻き立てる謎めき、豊かな語彙を操り鋭い五感を言葉で正しく顕すことができる知性。そしてそれらを持ちながらも、必要以上に語らないことを美徳とする謙虚さと品性から、自>>続きを読む

ジョーカー(2019年製作の映画)

4.4

アンビバレンスの過剰反応とデストルドーの発散の繰り返し。失うものが無くなった人間の狂気はリアルで、終始焦燥と寂寥に飲まれ最後には鈍痛だけが残る。

"隠れモラトリアム人間"で溢れる現代、きっと誰もが道
>>続きを読む

アデル、ブルーは熱い色(2013年製作の映画)

3.7

全編通して散りばめられる熱い視線と不意なブルー、押し寄せるリビドーに体温が高まる。
「窮鼠はチーズの夢を見る」でも感じた、性欲のメタファーとしての食事。そして色恋は音楽で生々しく表現される。(窮鼠がア
>>続きを読む

ダンサー・イン・ザ・ダーク(2000年製作の映画)

4.4

対人関係に於いて「気にしない、期待しない、拘らない」と覚悟したのは確実にこの作品のせいだ。

感情が溢れる映画は文字にして昇華させるのが性に合っているのだけれど、この映画だけはそれができない。時を奪わ
>>続きを読む

(500)日のサマー(2009年製作の映画)

3.5

「好き」はいつも自由で、気まぐれで、楽しくて、無責任。一時の癒しと快楽で良い。明日は今日と違う誰かを好きになっているかもしれないのだから。

自分の物差しをはっきりと見せないことを美徳とするサマーは、
>>続きを読む

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)

3.5

「あぁ、この関係も終わりか」と気づき始めた時のヒリヒリ感は、麻酔の切れ始めによく似ている。
私達は生まれた時からある一定の地獄を抱えていて、誰かと繋がっている時だけ一時的に和らぎ、心が離れた時に「そう
>>続きを読む

マグノリアの花たち/スティール・マグノリア(1989年製作の映画)

4.3

病床のシーンが描かれる物語で、大切な人が衰弱している病室に迷いなく入りひと時も離れず手を握り続けるのは、いつだって女性だった。

出産は人生で最大の覚悟なのだろう。汚れた世界で命を育てる険しさ、いつ失
>>続きを読む

ラ・ラ・ランド(2016年製作の映画)

4.5

夢のために手放した関係性は「お互い好きだったけどタイミングが悪かったね」と強引に粉飾され、ドラマチックに額装され、剥がれた壁紙を隠すように釈然としない様子で飾られる。
恋人との別れと引き換えに成功を掴
>>続きを読む

世界一キライなあなたに(2015年製作の映画)

4.7

当たり前のように四肢を操る日常に「生きていたい理由」を並べる隙はあっただろうか。そしてそれらは生きているうちに片付けることができるだろうか。コントロールできない身体をもって生について思索することは、死>>続きを読む