このレビューはネタバレを含みます
被写体との距離を保ったままカメラを平行移動させていくパンが多用されるが、この手法が作品全体を貫く倫理観を体現している。住民説明会で上映されるプロモ動画の、森にはいっていく人に合わせてカメラがずかずかと>>続きを読む
『悲しみの王』の撮影時は、ミゲルが王で、フリオが探偵だった。上海に帰ってしまった歌手というのは、ミゲルと恋人になったあと、フリオになびいて、結局アメリカに行ってしまった女性に対応していて、だから>>続きを読む
『フランケンシュタイン』(ベラが「ゴッド」と呼ぶゴドウィンはもちろん、メアリー・シェリーの旧姓)と『ピグマリオン』をマッシュアップして『オーランドー』風に味付けしたという感じ。美術がすごくて鶴見中尉ば>>続きを読む
青山真治『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』(2005年)を彷彿とさせなくもない、ディストピア×音楽映画。ロック・ミュージックを「ミームとしての民主主義」(文化人類学者のデヴィッド・グレーバーがそういう話>>続きを読む
オリヴィエ版、ブラナー版、ヒドルストン版と時代が下るごとに戦場が悲惨になっていく。ヒドルストン版では反戦色の濃いブラナー版さえやらなかった「捕虜の殺害」シーンまで(かなり抑えてではあるが)映像化されて>>続きを読む
印象に残ったのは序盤でヘンリーを戦争へと導く聖職者の描き方。教会の利害を守るために、戦争に大義を与えるようなサリカ法の公権的解釈を示し、献金にも手抜きのない彼らの腹黒さが強調されている。文系知識人だっ>>続きを読む
『プロジェクトX』的なものでは決してなく、ジャンルとしてはクリント・イーストウッドの『J・エドガー』(2012)やフィリダ・ロイド『マーガレット・サッチャー』(2012)のような重厚な伝記映画>>続きを読む
フェミニズムというよりは(というか、フェミニズムは当然の前提として)カルチャー・ウォーをメタ的に主題化しようとしている映画にみえた。ケンが最高裁判事を男ばっかにしたり選挙を乗っ取ろうとしたりするあたり>>続きを読む
画面を上から下、または下から上へと移動させるティルティングと画面を左から右、右から左へと移動させるパンニングを意識的に使い分けている映画。特に冒頭30分くらいは主人公の知覚が縦方向のティルティングで、>>続きを読む
身構えて観賞しなければいけない作品かというとそんなことはなく、予想以上にエンタメに寄せている。中世のキリスト教世界のお話ながら20世紀的な階級闘争のテーマも投影されていて、思ったより『七人の侍』だった>>続きを読む
全体として反復を効果的に使っている作品だなと感じた。ライオンの国王が崖の上に姿を現し動物たちがそれを祝賀するあの有名な場面や、スカーが敵対者を崖っぷちに追い込むといったほぼそのままの繰り返しもあれば、>>続きを読む
前の晩に黒澤明のオリジナル版を観て、この主人公の不器用さはイシグロ的な主人公に通じるところがあるなと納得したが、このバージョンでは主人公と作家が出会う場所が深夜の酒場から海辺の食堂に移されており、これ>>続きを読む
タクシーの車内や喫茶店、葬式の場面などで気まずさを映像(表情)と音声の不一致で表現しする演出が印象的。泥沼は『姿三四郎』や『酔いどれ天使』といったその他の初期作品にも共通するモチーフ。時間の構成が凝>>続きを読む
計算された色使いや、演劇のような説明的な台詞、役者の動作が意図的にぎこちなかったりするのもそうだと思うのだが、これは作り物なんですよと言わんばかりの仕掛けが常に何らかの仕方で作動している。ブレヒトの影>>続きを読む
さすがに20年近く前だけあって笑いのセンスは今とずれてるところがあると感じた。しかしシェイクスピア原作でしかも1986年と2206年という2つの時系列を錯綜させるという情報過多なことをやりながら作品と>>続きを読む
『All You Need Is Kill』や『タコピーの原罪』など、私が知っている限りの「ゲーム的リアリズム」(東浩紀の提唱した概念だか、ここではとりあえずマルチ・バースやループを主人公たちが自分に>>続きを読む
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2022.02.26追記あり。
16、7年ぶり2回目(爆音上映)。個人的にもすごく思い出深い映画です。当時は衝撃を受けてノベライズ版を読んだりしてました。
沢井たちは社会から逃げ出すようにして「別>>続きを読む
ポランスキー監督作品というのでちょっと躊躇しましたが、今回を逃したら一生観ない気がしたので映画館に行きました。
考えてみると、年頃の娘が母親に強引に背中を押される形で結婚市場に参入するというところま>>続きを読む
映画的な工夫に溢れた『そして父になる』の後に観るとずいぶんリラックスしたアプローチで、特に樹木希林が出てくる場面はドキュメンタリーを観ているような錯覚に陥る。
今までに観た是枝作品のなかではいちばん作品としての構築性が高かったように思う。ゴルトベルク変奏曲が繰り返し使われるのもそういう意志の表れなのかなと。
たとえば中盤の「2人とも引き取ろうか」などと考え>>続きを読む
印象に残ったのは最後の4人が砂浜を海に向かって歩きながら、最初は等間隔に、それから距離を縮めたり離したりするところ。浜辺に人が立っているの図としては『甘い生活』に次ぐインパクトだった気がした。
『君の名は。』以前の新海誠作品において、マンガ的にデフォルメされた幼い顔立ちの主人公たちとハイパーリアルな背景画の「美しさ」との水と油のような対比は、主人公たちにとっての世界が働きかけることのできる対>>続きを読む
本作は新海誠の最高傑作ではない(それはおそらく『秒速5センチメートル』である)が、新海誠(『君の名は。』で大ブレイクする前の)とは何だったのかを理解する上では決定的に重要な作品。
結論からいえば、新>>続きを読む
赤い車で高速を走りながらタバコを吸う場面、まんま『ドライヴ・マイ・カー』でしたね……。ここでは実証的な影響関係は度外視して、構造的な相似性についてコメントします。
どっちも日本の「北の方」生まれで「>>続きを読む
まず素朴な水準で感想をまとめると『ラピュタ』のムスカを主人公にしたスピンオフ作品という感じ。この作品を経て、ジブリじゃない仕方でヒットするにはどうしたらいいかをかなり真剣に考え抜いたところに『君の名は>>続きを読む
マンガ・アニメが【デフォルメされた人物+デフォルメされた背景】で子どもの世界を描くことから出発した表現だったとすれば、そのアンチテーゼとして台頭したのが【リアルな人物+リアルな背景】という手法と時間ル>>続きを読む
現代の働き方に適応できなくなった(マルクス主義的にいえば「疎外された」)女性と、「靴作り」という物造りに直結した、現代では夢のような仕事に「現代の働き方」(まあ有り体に申し上げれば資本主義社会ですね)>>続きを読む
本来喜劇として書かれたものをシリアスな劇として演じきるという苦行を2時間続ける無理ゲー。次のお笑いポイントはどうやって塗り潰すのだろうと、通常とは逆の方向でハラハラしながらみるという特殊な楽しみ方をす>>続きを読む
「戦争は常に人間の最悪な面を引き出す、常に」と言い放つシンドラーは冒頭からわりと最低な人間として演出されていたと思うのだけど、そういう彼から人間の最良の面を引き出したのは、結局なんだったのだろう。>>続きを読む
社会に働きかけるというのは、勝つ/負けるということじゃないんだなということがわかった。これは多分とても大事。
世界一有名な物理学者にして電動車椅子レーサーの伝記映画だと思ったら『チャタレー夫人の恋人』のアップデート版だった、という感じ。
音楽がヨハン・ヨハンセン。
10年以上前の作品なのでゲイであることが差別の理由になってしまう世界観なところがあってちょっと古く感じてしまった。というかこれが「古い」と感じられる世の中であってくれいと思いました。
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もともとウォルトを導いてくれたのはスーだったのが、後半はウォルトとタオを繋ぐ媒介項のような扱いになってるのはいただけない。
ウォルトが最後に罪を償ったというのわかる(銃弾に倒れたウォルトが両手を広げて>>続きを読む
ジュリー・テイモアって2010年の『テンペスト』も監督してた人なのね。そういえばあっちのアリエルと、こっちのパックは似ている感じがした。ビジュアルというより、妖精と主人の力関係へのアプローチが同じだな>>続きを読む
『ヴォヤージュ・オブ・タイム』は「母」への呼びかけと共にはじまっていたけど、こちらは「父」が出てくるのでお互いに補完するような関係なのかなと思ったりした。
ストーリー的なものを無理矢理抽出すれば、そ>>続きを読む
世界のありふれた美しさと向き合って生きることの大切さ(皆にそれが出来たら戦争なんてなくなるだろうに)を、しかしそれが出来たからといって生きることの凡庸さ、ままならなさがどうにかなるわけではないのだとい>>続きを読む