むっしゅたいやき

アウトサイダーのむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

アウトサイダー(1981年製作の映画)
3.5
ベートーベンの様な“自分自身”になれなかった男。
ベーラ・タル。
写されない雨と映されない棺が、青年の何処か非現実的で夢想的な、空漠とした世界観を表す作品である。

タルは、その作品に物語性を求めてはならないタイプの監督である。
彼の作品に在るのは画と音と、登場人物達の主張と感情のみであり、例え一見物語性が有る様に見えても其処にテーマは無い。
本作に於いてもこの監督固有の特色は同様で、垣間見えるのは作中社会、敷衍して当時行き詰まっていた専制社会主義国ハンガリーの閉塞感と倦怠感、それ等に対する苛立ちと諦観のみとなり、各々が前段で述べた“見えないが激しく屋根を叩く雨の音”、“映されない、最早声を挙げる事もない棺”に表されている。
男女の言い争いは、其の儘民衆の声と、高圧的で押し付けがましい国家の声を表していよう。

本作は監督に於いては珍しいカラー作品であるが、個人的に彼の色遣いに目新しさを感じられなかった。
矢張りタルと言えばカッチリ構図が決まり、エッジと陰影の効いたモノクロームの画を期待する所であり、且つまたその“画”に主張や感情を込める作風であるが故にこそ、その利点を放棄された様に見えるのは残念な点である。

冗長なダンスや実の無い会話のシークエンスと云い、構成面でも稍不満が残る。
長編制作第二作と云う点を考慮し、このスコアとする。
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