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ラーゲリより愛を込めてのsnowwhiteのレビュー・感想・評価

ラーゲリより愛を込めて(2022年製作の映画)
3.9
評価高いので見なきゃなあと思いながら、戦争ものが苦手なので後回しにしてきたがそろそろかなと視聴。

戦争が終わりソビエトの捕虜となった山本。厳しい気候や過酷な強制労働の捕虜生活。

戦後何年かして日本との交渉で徐々に捕虜が解放されていく。自分達もいつか帰れると信じて厳しい強制労働生活に耐えていたが、自分達が送られた収容所はスパイ容疑をかけられた捕虜が行くところでそこに送られた者は20年以上日本に返して貰えないと分かる。

脱走するものが続出するが脱走者はことごとく射殺された。希望を失い自殺するものが出るなか山本は皆を励まし希望を失わない。家族と分かれる時絶対に帰ると約束したから。


松坂桃李、桐谷健太、安田顕たちの名演で捕虜たちの苦悩がとてもよく描かれていたと思う。山本になつく若い兵が中島健人だと最後まで気付かなかった。

ニノはいつものあの突然怒鳴る演技を封印し押さえた演技をしてていい演技だったと思う。あのワンパターンの怒鳴る演技が嫌いであれが出る度うんざりしている。その割にはニノのドラマや映画は面白いのでよく観ているのだが…。今回は凄くいい演技だった。

奥さんの北川景子さん、やっぱり上手いですね。もう大好きです。彼女の映画やドラマも全部チェックしてますがいつも最高です。戦前の日本人にあんなに綺麗な人、そうそういないでしょとちょっと突っ込みたくはなりましたがとてもいい演技でした。

【この後ラストのネタバレあります。未見の方はご注意下さい。】




山本は過酷な強制労働ばかりでは捕虜たちの精神が持たないので野球をすることを許可するように掛け合う。気持ちが塞いでいたのでは労働の効率もよくない筈と。

仲間をかばって山本は牢屋に監禁されたりもする。徐々に皆は山本を信頼するようになっていく。

そんな中、山本が身体を壊すが病院に連れて行って貰えない。捕虜仲間は山本を病院に連れていかないなら働かないと雨の中ストライキをする。捕虜にひどい扱いをすることは国際法上も禁止されているので止むなくソビエトも山本を病院に入院させてくれた。

入院した山本の状態は分からない。見舞いに行きたいと訴えるが許可されたのは1人だけだった。誰が行くかということになるが山本を毛嫌いしてた筈の桐谷健太が行く事になる。他の者は山本に会った途端泣いてしまうから。

山本は自分は癌であと少ししか生きられないと診断されたと言う。

戻ってきた桐谷から山本の病状を聞くみんな。彼に遺書を書かせようと安田顕が提案。それはひどいのじゃないかと反対するものもあったが、彼の思いを家族に残すべきだと意見がまとまった。

家族一人一人に思いを書く山本。

このシーン泣けたなあ。山本の思いが痛い程分かった。

文字が乱れていたのも見事だった。前半で家族に手紙を書くシーンでは綺麗な字だったのにこのシーンの字は乱れていた。山本の病状が良くないことと辛い気持ちがよく表現されていたと思う。

山本がノートに書いた遺書を病院から持ち帰った安田顕。

収容所では時々抜き打ちの検査が入った。日本語で何か書いたものを持っていればスパイ行為と見なされて処刑されるので遺書の4ページを破って4人が各々1ページずつ必死で暗記し元本は処分した。その後山本は病死。

一方山本の妻(北川景子)は山本が生きていると信じて復員兵が戻ってくる度に駅に行き復員してきた人に「山本を知りませんか?」と訪ねていた。長男は「もう無理だよ。諦めた方がいい。」と母に言うがそれでも妻は信じて疑わない。だって約束してくれたもの。絶対戻るって。あの人は約束を破ったりしない…。

戦後10年が経った。ようやく日本に戻れる日が来た。捕虜の4人は必ず遺書を山本の家族に届けようと誓う。

このシーンを観て、今こういう風に思ってても日本に着いたらきっと無理だろうなあと思った。4人の内1人でも行けばいい方だろうなと。

何故ならこの4人の家族がどうなってるかも知れないし生きていくのがやっとで他人の世話どころではないだろうから。

そもそも家が焼けて家族が何処にいるか分からなかったり死んでしまっていたりすると折角日本に帰って来ても帰る場所もないかもしれないのだ。

映画は続く。
捕虜達が日本に戻って1年後、妻のもとに安田顕が訪れる。そして山本が死んだことと遺書を預かった事を伝えた。遺書は安田が覚えた1ページを紙に書いたものだ。

長男に宛てたページ。
人として正しく生きよ。

何年かかけて桐谷健太、松坂桃李、中島健人とバラバラと1ページずつ届けにくる。

最後に届いたのは妻に宛てたページ。

子供たちを1人で育ててくれたことに対する感謝。
(必ず帰るとの)約束を守れなかったことに対する謝罪が綴られていた。

それまで一度も弱音を吐かず泣かなかった妻は号泣する。「嘘つきー。嘘つきー。」北川景子の声が今も頭の中に響く。

時代が変わって山本の曾孫の結婚式。孫の結婚式で山本の長男が山本の遺した言葉(遺書)を引用して挨拶をしている。end



凄く良かったのだけど、見終わった後で、正直なところ遺書を1人も欠けることなく4人全員が届けたのは現実味がないなあと感じた。

覚えた遺書も日本に帰ってすぐに書き留めておかないと忘れてしまいそうだし、遺書だけじゃなく山本の住所も忘れてしまいそうだし…。
律儀な人は届けるかも知れないが4人全員は無理な気がした。映画的だなと正直思った。

が、後で調べると実話を元にしていることが分かった。凄いと思う。山本の妻じゃないけど4人に感謝する。子供たちによくぞ遺してくれたと思う。

余談だが1つ思い出したことがある。30年前私はある会社に中途入社した。定年後も勤めていた経理部長が退職するというのでその後釜で彼から1ヶ月間引き継ぎを受けた。辞める前日「辞められた後はどうされるのですか?」と聞いてみた。

「マニラに行こうと思ってる。」との答えに「マニラ?」と聞いてしまった。

ヨーロッパに旅行した際に定年後旅行されてるご夫婦によく出会ったので定年後に旅行すると言うのはよくある話だと思っていたが行き先がマニラというのは意外だった。

「戦争の時に僕は海軍にいてマニラ沖で戦ってたんだ。仲間が沢山亡くなったから一度行きたいと思ってたけど仕事が忙しくて今まで行けなかった。やっと行けるようになったから花でも供えて弔ってやりたいんだ。彼らは骨も拾えずお墓に葬られることもなかったからね。」その話を聞いて私は何も言えなかった。

戦後生まれの私たちには分からない色々な思いがあるのだと思う。

一緒に苦労を共にした仲間に対する思い。自分だけ生き残ってしまったという思い…。

様々な思いが4人に遺書を届けさせたのだと思う。
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