Sachika

イニシェリン島の精霊のSachikaのネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

「お前が嫌いになった」
突然親友が言う、言葉の意味がわからない。どうしてそうなったのかも。俺のこと好きじゃなかった?

困惑、混沌。
鬱蒼としたアイルランドの小さな島では、昔からそこに居る、誰もが知り合いで。
昨日とは違う今日、変わるものと変わらないもの。
精霊のみぞ知る結末。

空気の重々しさ、本島での内線の音、コルムの苛立ち。
シニカルな台詞とのちぐはぐさに気づいた時、これはコメディだ!と気づく。
何より、急に嫌われてしまったパードリック演じる、コリン・ファレルの困り眉が終始良い味を醸し出している。
どんよりとした天候が多いけど、風景の美しさやパッと目を引く明るい色、絵画の様に切り取りたいシーンが多い所が良いなと思った。

何もない閉鎖的な島、同じ毎日、同じ時間、同じパブ。
本島が対岸に見えるが、届くのは戦争の音だけ。
死ぬまで何もない平和の中で、甘んじて過ごすのか、一歩踏み出すのか。
コルムが何故「パードリックと絶交しようと思ったか」を考えて観ていると、一緒に鑑賞した恋人と私で、全く違う解釈をしていて面白かった。

私→変わりたいけど変われなかった日々を変えたくて、絶交という形を取った。親友だからこそパードリックにも変わってほしい(もちろん友情は残っている)。
彼→日々の鬱憤がたまってただただ嫌いになった(けど友情は残っている)。変わりたいけど変われない苛立ちを、自分の写し鏡のようにパードリックにも感じていた。

それにしても、どちらにせよ「度が過ぎる」けど笑


余談だけど、大学の時のアイルランド文学の解釈で、アイルランドの人は島独特の空気感に、島から飛び出したいと願う(願うだけで終わる)、または実際に島を飛び出していく(だけど戻ってきてしまう)というものがあって。
何もないまま終わるのはダメだと思いつつも、変われないのかなあ。
本編では描かれないけども、一歩踏み出せたシボーンも、いつかは島へ戻ってくるのかなあと想像してみる。

あと予想通りバリー・コーガンくんがめちゃめちゃいい!!
役者側の演技の力もあるけど、マーティン・マクドナー監督作品に出てくる、(あ!この人アホなのかも?)もしくは(この人アホそうに見えて本当は頭いいのかも?)のキャラクターの描き分けが上手いなって思うの私だけ?

色々考えた上ではやくもう一度観たいけど、めちゃめちゃ疲れる作品だったから、しばらくお腹いっぱい感もある笑
Sachika

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